2019年、EICMA(ミラノショー)にその姿を現わすも、特異なスタイルから市販に懐疑的な目を向けられていたドラッグスターが、コロナ禍を乗り越えてついに国内デリバリー開始。試乗の機会を得たので早速その乗り味をレポートしよう。
文:岩崎雅考/写真:吉田 朋
スクーターともバイクとも一線を画すスポーツモデル
ITALJET DRAGSTER 200のスタイリング
一貫したスポーティさに作り手の想いを感じる
バイクでドラッグスターといえば、ほとんどのライダーは大ヒットしたヤマハのクルーザーモデルを頭に思い浮かべるだろう。しかし、スクーターに詳しい人にとっては、イタルジェットが1998年から2000年代頭にかけて販売していた超個性的なスクーターこそがドラッグスターなのだ。その新型モデルがイタリアのEICMA(ミラノショー)で発表されたのが2019年。初代のスタイリングをオマージュしたハブセンター・ステアリングと丸見えのトラスフレームを採用した独特なスタイルは、国内でもちょっとした話題になったことを覚えている人もいるだろう。当時は早々に発売されることになると思われていたが、新型コロナウイルスの影響などでなかなか生産が始まらず、発表から2年以上経ってついに国内デリバリーが始まったのだ。
現車を目の前にしてまず目を奪われたのが、ハブセンター・ステアリングやトラスフレームといった大きなポイントではなく、そのコンパクトに見せるデザインだった。同じホイールベースとなるヤマハ・NMAXやベスパ・GTSスーパーよりコンパクトに感じる車体は“よくここまで削ぎ落とせたな”と感嘆せずにはいられない。また、ハブセンター・ステアリングだとハンドルの切れ角が確保しずらいといわれているけれど、意外と切れて取りまわしがしづらい印象がなかったことにも驚かされた。
またがった際にちょっと違和感があったのはシートの硬さ。これまでさまざまな車両にまたがった経験から、スクーターのシートといえば適度に柔らかいのが一般的。しかし、ドラッグスターにはそのソフトさがないラバー仕様のレーサーに近い印象である。それが走り出すと気にはならなくなるのがこれまた“あれっ?”と思わさせられたポイントだ。残念ながら長時間乗ってはいないので、時間経過とともに痛みが出てくるのかもしれないが、1時間ほど普通に走り回った限りはお尻が痛くなるようなことはなかった。
エンジンを始動して、“やってくれたね!”とニンマリさせられるのが、けっこうイケイケな排気音と、そこそこの振動である。まさにスタイルから受ける印象どおりのフィーリングが、五感を刺激してくれるのだ。まるで車体から“スポーティに走れよ”といわれているようだ。とはいえスロットルをゆっくり開けていけばマイルドに走り出してくれるので、開け開けで行かなきゃと気負う必要はない。もちろんスロットルを急激に開ければ勢いのある加速を見せてくれる。そんなわけで、交通の流れが速い都市部の幹線道路においても、その流れを十分リードすることが可能だ。高速道路へのアプローチで加速不足を感じることもないし、スポーティな走りにも十分対応できる。
そして、スポーティな走りを実現するにあたって、駆動系とともに速度調整に重要なブレーキも十二分な性能を発揮する。キャリパーは前後ともレースからストリートまで幅広いステージで定評のあるブレンボ製が採用されていて安心感がある。さらにブレーキホースがステンメッシュのため、レバーを握り込んだ際のフィーリングはスーパースポーツをはじめとするスポーツ走行に特化したモデルのそれに近い、カチッとしたものとなっているのだ。その結果、レバーを握り込んでいった際の効き具合がわかりやすいし、絶対的な制動力も高い。
特異ではあっても気難しさはない乗り味
乗り味の面で多くのライダーが気になっているのは、スタイル面での大きな特徴にもなっているフロントサスペンションのハブセンター・ステアリングだろう。通常のフォークタイプは、フロントブレーキをかけた際にフロント側が沈み込むノーズダイブが起きるのだが、ハブセンター・ステアリングにはそれがない。それゆえ、多くのライダーは曲がる際に最初は違和感があるに違いない。ただ、その沈み込みがないことでスムーズなコーナリングができないなんてことはない。フィーリングに慣れれば、タイトなコーナーもグイグイ曲がれるし、車線分けされていない細い道でのUターンもまったく苦にならない。
ハブセンター・ステアリング同様目を引くトラスフレームは、低速だと硬い印象があるけれど、速度が上がってくるとその感覚は消える。そう、元気な駆動系と合わせて気持ちよくスポーティな走りを楽しめるパッケージなのだ。速度域に関係なく直進安定性に不満を感じることもなく、幅広いシチュエーションで楽しめるモデルといえる。そのほとんど外装のないルックスもあって、以外とオフロードでガンガン遊べるんじゃないかとすら思ったくらいだ。
一般的な体格の成人男性によるタンデム走行も試みたが、ライダー側は運転に支障が出ることはなかった。ただしタンデマーはコンパクトなタンデムシートに座り続けることが大変で、それ以上に上体を支えるために手をかける場所の確保が難しかった。ということでタンデムはあくまでも緊急用の手段としておく方がいいだろう。
乗る前は初代の印象もあってスクーターカテゴリーの1台としてとらえていたのだが、乗り終えてみれば、スタイルと乗り味の両面から“スクーターともバイクとも異なる別の乗り物といってもいいんじゃない?”と思ったことも付け加えておこう。また、今回試乗したのは200のみだったので、125がどのようなパワー特性なのかも大いに気になるところだ。
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※記事の内容はNo.239(2022年2月24日)発売当時のものになります