KTMの中排気量単気筒スポーツ、RC390が初めてのフルモデルチェンジを受けた。見た目だけの変更で終わらず、アップデートは多岐にわたる意欲的な進化だ。その新型に乗ってクローズドコースとストリートを走り回った。
文:濱矢文夫/写真:関野 温
走行性能のレベルを上げて走る楽しさをさらに高めた
KTM RC390のスタイリング
軽量化と性能向上で明確にレベルアップをはたす!
明らかに動きの質が向上した。旧型とはっきりとした違い。性能アップが確実にわかる。事前に説明を受けてわかってはいたが、ちょこちょこっとイジって外観を新しくして“新型でございます”ではなく、走りについてとことん追求したアップデートがなされていることを走りながら実感した。RC390が登場したのは2013年だった。先に出ていたネイキッドのデュークとエンジンなどを共有しながら、より前傾姿勢のフルカウルスポーツとして誕生。姿勢だけでなく走りの味付けも差別化されていた。
新型はMotoGPマシン“RC16”にインスパイアされた新しい外観になり、スクリーンと一体になった個性的なフロントマスクを含む前面投影面積を拡大。これによって得られるのは防風性能の向上だ。CFDシミュレーションによる空力特性も最適化され最高速を伸ばすのにも役立っている。過去に旧型RC125オーナーだった筆者としては、ライダーの肩あたりにあたる風が低減されたように感じた。ミラーのステーがゴツく太く見えたモノから前面投影面積が小さい板状になっているのも、エアロダイナミクスを考慮してのことだろう。ウインカーもカウルと一体になっている。
ライダーの体が触れるエリアを細く、そして面積を拡大し、エッジを取り除いてフィット感を高める変更は効果てきめん。サーキットと公道での試乗となったが、大きく切り返したり、高速から急減速しながらコーナーに進入していくコースで、最初から違和感のないホールド感。速く走ることだけにこだわらない、いろんな場面がある公道での制御のしやすさ、長時間走行での疲労度に影響を与える部分。一体感が気持ちいい。それでいてガソリンタンク容量が以前の9.5ℓから13.7ℓと拡大しているのだから驚く。他のレイアウトより燃費を伸ばしやすい単気筒エンジンとの組み合わせだから、給油を心配する機会が減ることはうれしい。
前後サスペンションも刷新された。左に圧側減衰、右に伸び側減衰の調整機能を持つオープンカートリッジのWP製フロントフォークと、別体リザーバータンクが大型になったWP製リヤショック。これに加えて、新型の走りを支える大きな要素となっている軽量化がある。新しいデザインのホイールは前後で3.5㎏も軽くなり、ブレーキシステム単体でも950g軽くしているから、合計で4.5㎏までになる。KTMの開発陣内で、ホイールを新開発するか、従来品を使ってコストを下げるかと議論になったそうだ。大排気量クラスよりかなり厳しいであろうコスト条件において、かなりの障壁になっただろう。それでもホイールを新しくする方を選択したのは英断だ。走りの奥深さとパフォーマンスが数段アップしたように思えた。
利きもさることながら、握り込み具合によって制動力を制御しやすいフロントブレーキを使ってからのコーナーへの進入。深くリーンさせてのターン姿勢。後輪を意識しながらスロットルを開けていく一連の動きの安定感が高い。サスの変更やバネ下重量の低減による路面追従性のよさが出ている。荒れた路面やギャップでも、以前よりしなやかさがあり、加減の幅が広がった印象を持った。向きを変えやすい…、いや変わる。旧型の電子機器はガソリンタンク前部にあったが、新型では後方、ライダーシートの前部にした。こうして前荷重を増やしたことも回頭性のよさに出ているのだろう。
軽さの追求はそこだけにとどまらず、新たに剛性バランスを変更してサブフレームをボルトオンにしたフレームも単体で1.5㎏の軽量化を達成している。そりゃあ走りが明確によくなるわけだ。他のKTMの車両からも作る側の“こうしたかった”と強い意思を感じることが多いけれど、この新型RC390も同様だ。走行性能を高めてもっと楽しくさせたかったという意思が伝わってくるのだ。手を抜けない部分をわかっている。わかっているからこそ手を抜いていない。横方向・前後方向の動き、それに車体の傾きといった3軸を検知するボッシュ製IMUを使い、コーナリング中にも対応したABSやトラクションコントロールシステムの採用などもしかり。
373㏄単気筒エンジンはもともとスムーズだったが、もっと磨きがかかったよう。6000から1万rpmくらいまでが本番。エアボックスの容量を40%大型にして低中回転域でのトルクを増大させたそうだが、基本的に高回転域重視と思っていい。とくにコースでは高回転域を維持していないとややもたつく。スリッパークラッチは安定した姿勢をたもつのに助かる。
ストリートでもおもしろい
ストリートでの日常領域ではもどかしいほど低中回転域の不足を感じさせず、試乗車はオプションのクイックシフターも付いており、使い勝手に不満はなかったと補足したい。スムーズなのもあってトルク感がもっとほしいと思うのは贅沢か。この排気量クラスの車両で公道のみならず、そのままサーキットでもエンジンのパワーを使い切った走りが不安なくできる車両は多くない。RC390は万能スポーツモデルとしてさらなる高みに登った。
インプレッション by カトー
軽さは最大の武器! 安定感も高く安心して走れる!!
ひと目見たときから “あ! MotoGPマシンっぽくてカッコいい…!!” と思っていたのだが、RC16をオマージュしたと聞いたときにすべてに納得がいった。一般公道用モデルの中でも稀に見るシートのガチさ。レーサーに限りなく寄せ、硬さもあってグリップ力も高いシートは、ロングツーリングではお尻が痛くなりそうだが、スポーツ走行にはうってつけ。取りまわしなどでは250㏄…、いや125㏄?と感じるレベルで車体が軽いのだが、ハンドリングも軽快そのもの。その中にも安定感があり、低速でのコーナリングでも不安感がない。エンジン回転数を上げていくと、パワフルな加速力に圧倒される。ただし、シングルっぽさをあまり感じず、振動も少ないなめらかな加速が意外だった。
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※記事の内容はNo.245(2022年8月24日)発売当時のものになります