KTMの2023年オフロードモデルの中で、2ストロークエンデューロ車は、150・250・300の排気量がある。その中から250EXCに試乗。熟成が進んだ走りの印象をお伝えしよう。
文:濱矢文夫/写真:関野 温
250EXC:2ストロークの長所を高水準でまとめる
KTM 250EXCのスタイリング
2ストロークを選びたい理由がちゃんとある
初めての人にはわかりづらいので説明すると、KTMのオフロードモデルは、排気量数字の後ろに“SX”と入るとモトクロスモデル。“SX”だけだと2ストロークで“SX-F”になると4ストローク。エンデューロモデルは“EXC”と排気量数字の後に入る。モトクロスモデルと一緒で2ストロークが“EXC”のみで、4ストロークは “EXC-F”が後ろにつく。だから、これから紹介する250EXCは2ストロークエンジンのエンデューロモデルってこと。
排出ガスが4ストロークよりクリーンにしにくい関係で2ストロークエンジンは激減したけれど、エンデューロ・クロスカントリーではまだ新型が発売される立派な現役だ。なぜそうなのか? それはメリットがあり、ほしいと思う人がいて市場があるから。KTMは排出ガス規制をクリアするために、2018年モデルから吸気をフューエルインジェクション化した。2ストロークは構造からクランクまわりの潤滑のためにガソリンの中にオイルを混ぜるのだが、フューエルインジェクション化により従来のように最初にガソリンとオイルを混ぜて使う混合燃料が使えず、分離給油システムにしてまで2ストロークを延命させた。
メリットは乗ると納得。同排気量の4ストロークエンデューロモデルと車体の構成はほぼ共通ながら、走っているときの軽さがまずある。250EXCは燃料が入ってない状態で103・4㎏。最近は4ストロークモデルも軽量化が進み、250EXC-Fは103㎏。そう変わらない。でも運転しているとき、リーンさせる動きや、林の中を左右によけながら抜けていくときの動きは、体感としてこのEXCの方が軽いのである。この感覚は決して勘違いではない。わずかだろうけれど、マスの集中化や重心位置の違いがそれを生んでいるのだろう。
インナーチューブがφ48㎜のWP製フロントフォークは初期のあたりが柔らかく、奥にいくほどしっかりとふんばる。エンデューロにはない大きなジャンプを跳ぶモトクロッサーと比べると“柔らかい”と表現できるが、単純に柔軟なだけでなく、プログレッシブな減衰ができている。凸凹したところを速度維持で通過するような場合のいなしがいい。ゴロゴロとした石に乗り上げて急に沈む量が大きくなる場面で左右に振られても、コントロールできる領域から外れにくい。
兄弟車のハスクバーナMCと違い、ボトムリンクではないリンクレスのPDSリヤショックは独特のフィーリング。スロットルを開けた際のすばやくダイレクトに蹴り、押し出すトラクション。標準セッティングだとゆっくりそろそろと進むより、加速しながら走る方が全体的に安定していた。自分のバイクだったら、走りと好みに合わせたセッティング変更をしたい。
フューエルインジェクション化されたエンジンは熟成が進んで、レスポンスとパワーフィーリングは良好。以前、キャブレター仕様の250EXCを所有していた筆者は“パンチがおとなしいかな”と思うが、逆に考えるとトルクの出方がフラットになって乗りやすく、マイルドなこちらの方が実際は速く走れそう。4ストロークに近付いた。ただ、そうはいっても2ストローク特有のよさ、絶滅させなかったその他の理由がちゃんとある。
高出力を得るために高圧縮化された4ストロークは、極低回転域であっけなくストップすることがある。同じような乗り方をしても2ストロークは粘って止まりにくい。いろいろなシーンでの柔軟性が高く、結果として走りやすく感じる。そして瞬発力があること。障害物を通り抜けるためにフロントの荷重を抜きたいとき、短い助走で急な上りをしたいときなど、オフロード走行と2ストロークは相性がいい。
当然4ストロークもそれ特有のよさはあるけれど、2ストロークをあきらめさせるまでの優位性まではない。明らかにピークパワーは同排気量の4ストロークより勝り、迫力の加速。より小さい排気量の2ストロークモデルの150EXCも軽快で魅力のある走りを楽しめるけど、排気量が150だとちょっとトルクが足りないと思う。が、250EXCは余裕がある。
動きの軽さ、エンジンパワーのバランスがちょうどいい機種。昔よりパワー特性が穏やかになったこのフューエルインジェクションの最新機種は、扱いやすさも増している。
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※記事の内容はNo.247(2022年10月24日)発売当時のものになります