YAMAHA MT-10 SP

ヤマハ MT-10 SP(2022年モデル)コーナリング走行

ヤマハ・MTシリーズのフラッグシップモデルであるMT-10がモデルチェンジされた。基本コンセプトをキープしたまま、より多くのライダーに楽しみを感じられるよう、ドライバビリティを徹底的に追求し磨きがかけられた。その乗り味は如何に?

文:横田和彦/写真:関野 温

MTシリーズの旗艦がよりフレンドリーに進化

YAMAHA MT-10 SPのスタイリング

強大なパワー&トルクをより扱いやすく進化!

“いやいや、こりゃスゴイぞ!”

走り始めてすぐ、思わずヘルメットの中でつぶやいてしまった。アクセルを開けた瞬間に押し寄せてくる怒涛の加速感。アクセルを大きく開けようと思うなら場所を選んでしまう。「そりゃベースがYZF-R1なんだから当然でしょ」といわれるだろうが、サーキットならいざ知らず、ストリートでならYZF-R1よりも新型MT-10SPの方が強烈だ。何より驚いたのは、それだけの高性能をライダーの制御下に十分に置いておけること。回転を上げていくとグワッ!と強大なパワーが盛り上がってくるのだが、不思議と怖さは感じない。一体ヤマハは新型MT-10SPにどんな魔法をかけたんだ?

 

ヤマハ MT-10 SP(2022年モデル)コーナリング走行

 

MT-10のデビューは2017年。それまでのMTシリーズとは異なった、押しの強いフェイスデザインはただ者ではない雰囲気だったが、走りも並ではなかった。YZF-R1ゆずりのクロスプレーン型クランクシャフトを備えた並列4気筒エンジンは、一般的な並列4気筒よりも荒々しくパワフル。電子制御サスペンションを備えたSPの車体はカチッとした動きでシャープな走りを体感させてくれた。

 

従来の大型ネイキッドの常識を覆してくれたマシンだったが、気になったところもあった。それはライダーの意思よりも少し先に行ってしまいそうな感覚があったこと。ハイパワー&トルクの産物といってしまえばそれまでだが、他のMTシリーズに比べるとワイルドさが突出しているように感じたのだ。当時、一緒に乗り比べをしたベテランジャーナリストも“スーパースポーツ同様の装備を持つ車体は、ネイキッドらしからぬキレのある走りが可能。エンジンも車体もレベルが高く、挑戦的な感じすら受ける。ペースを上げてもオンザレール感があるので、速度感が狂いそうなほど”と話していたくらい。多くの面で従来のネイキッドを突き抜けたマシンだったのだ。もちろんアクセルを大きく開けなければそんな不安とは無縁。安定したクルージングも十分満喫できたのだが、中回転域のワイルドな印象があまりに強く、以来、試乗するたびに“気合を入れていかないと”と思うようになっていた。

 

ところが、だ。ロボット顔と評されていたフェイスや力こぶのようなラインを描くエアダクトなど、コンセプトを引き継ぎつつエクステリアを一新した新型は、クラッチをつなぐととてもなめらかに動き出す。混みいった市街地でも実に忠実で、ストレスを感じさせることなく走ってくれるではないか。気合を入れまくっていたボクは肩透かしをくらった。とくに感じたのは低〜中速域でアクセルをわずかに開け始めたあたりのパワーフィールがスムーズかつ上品なこと。市街地走行で多用する部分だけに、この進化はすばらしい。SPに装備されているオーリンズ製電子制御サスペンションの動きも良好で、公道でもしなやかなで上質な乗り味を体感させてくれる。

怒涛の加速感がよりクリアになって楽しい!

ヤマハ MT-10 SP(2022年モデル)走行

 

だからといって牙が抜かれたわけじゃない。前方が開けたところでアクセルを大きく開けると、クロスプレーン型クランクシャフト独特のザラつき感があるトルクフィーリングが猛然と湧き出し、ものすごい勢いで車体を押し出していく。怒涛の加速力は健在だ。ただし先代で感じていたエンジンの回転が急上昇していくときの荒っぽさは落ち着き、図太いトルクで押し出される感覚だけがクリアに伝わってくる。洗練されたことを実感すると同時に、コントローラブルでもあることも感じた。そのためワインディングでもねらったラインをスムーズにトレースできる。このとき、スポーツ走行に向いたAモードにすると、車体の動きがカチッとなりシャープな旋回性が体感できる。スポーツライディング好きにはたまらない設定だといえよう。

 

IMU(慣性計測装置)の搭載によって、バンク角に応じたトラクションコントロールやスライドコントロールなどの車体制御性能が高まったことは安心感につながる。自然にライディングをサポートしてくれているのはありがたい。スーパースポーツと同等のハイパワーなエンジンを搭載するリッターネイキッドで、さまざまな路面状態が混在する一般公道を走るのだから、安全装備は多いに越したことはない。

 

ヤマハのウェブサイトでは新型MT-10の“ドライバビリティ開発ストーリー”を公開している。それを見るといかに緻密に、繊細に作り込んでいるかがわかる。それはヤマハが掲げている“人機官能”を追求するための作業でもある。非現実的な圧倒的パフォーマンスを多くのライダーが意のままにコントロールする。それを追求し、結実した一つの結果が新型MT-10SPである。人機官能を見事に具現化している1台だといえよう。

 

そのためリッターバイクながら、より気軽に乗り出そうという気になるキャラクターに仕上がっている。普段乗りからツーリング、スポーツ走行まで、さらに幅広いフィールドで使えるスポーツネイキッドへと完成度を高めていることが実感できた。

次ページ:YAMAHA MT-10 SPのディテールをチェック!

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問い合わせ先
ヤマハ発動機カスタマーコミュニケーションセンター
電話番号
0120-090-819
URL
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/

※記事の内容はNo.249(2024年11月21日)発売当時のものになります

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