2022年のイタリアのモーターサイクルショー・EICMA(エイクマ・通称ミラノショー)で姿を現したXL750トランザルプの発売が日本でも始まった。新しいミドルアドベンチャーツアラーの実力をさっそく試してみた。その乗り味をリポートする
文:濱矢文夫/写真:増井貴光
“CRF”ではなく“XL”を作ったということ
HONDA XL750 TRANSALPのスタイリング
どの場面でも使いやすいかたよらない性能を重視
トランス・アルプス(アルプスを走り抜ける意)を略してトランザルプ。初代は1980年代に登場した。当時は400㏄を超えるデュアルパーパスは少なく、アドベンチャーというカテゴリーすらなかった。初代から受け入れられた地域は欧州。XL600Vが好調で、XL650V→XL700Vと進化していった。そして1000㏄を超えるアドベンチャーツアラーが普通に走っている今、このXL750トランザルプが登場。初代をオマージュしたカラーが昔を知る者としては懐かしい。32ヶ国で売るそうだ。
270度クランクの754㏄OHC4バルブ並列2気筒エンジンは完全新設計。フレームの基本骨格とともに、国内では発売されていないネイキッドのCB750ホーネットと共有。だからか、ボア87㎜に対しストロークは63・5㎜とショートストローク。回して乗りたいロードスポーツならわかるけれど“アドベンチャーツアラーではどうなんだろう?”と思いながら試乗開始。これが心配をよそに低回転域からアクセル操作に反応して押し出すトルクがあり、切れることなく高回転域まで続く。
食レポを“おいしい”と単純に片付けるようでほんとうに申し訳ないが、とても乗りやすい。右手の動きで急に前に飛び出すような動きがなく忠実。さっき乗ったばかりなのにどのシーンでも慣れ親しんでいるみたいに使える。低中回転域が丁寧に仕立てられている印象だ。ハッとする加速ではなく、不足と思わせない適度な加速が続いて、速度が等加速度で伸びていく。回転の上昇が重々しいところもなく適度にスポーティ。
舗装された山道に入り、オフロード車では定番の21インチワイヤスポークホイールを履いていながら、ハンドリングがいいことに感心。想像以上に向きが変わるのが早い。常識の範疇でコーナリングスピードを上げていってもへこたれることなく実にしなやか。プロジェクトが立ち上がった当初はバリバリのオフ車にしようと考えていたと開発責任者から聞いた。だからもしかしたら、CRF750Lになっていたかもしれない。そこから、本当にストリートで必要なのは何かを考えて、ホンダデュアルパーパスの血統であるXLの味付けになった。それがすぐにわかる。初期が柔らかく沈むストローク感のある前後のサスペンションは、いい乗り心地も提供する。
当然、ダート林道も試してみた。オフ番長ではないが、気がねなく走れる。飛ばして振り回す乗り方には向いていないが“行けない”と思うことはそうない。スポーツ・スタンダード・レイン・グラベル・ユーザーとあるモードをダート向けのグラベルにすると、低回転域でのピックアップがはっきりして、アクセルでフロント荷重を抜きたいときに重宝する。わざと全開にしてみるとトラクションコントロールが働いて、リヤのスライドを抑制して暴れることはない。暴れたいなら任意の設定ができるユーザーにしてABSやトルクコントロールを切ることも可能。オンロードとのバランスを取りながら極振りせず、困らず、怖がらず、走り抜けていけることを大切にしたことが理解できる味付け。
ハンドルが左右42度と大きく切れるから、狭いところでの切り返しも楽。208㎏と軽いこと、身長170㎝の私でも足つきがいいことで、林道だろうが、狭い路地だろうが尻込みせず入り込んでいける使い勝手のよさ。行ってみたい好奇心を邪魔しない。
レーダーチャートにすると全方向にバランスがとれている感じだから、無個性に思えるかもしれない。が、無個性ではなく、それが個性である。ライバルにはない高い汎用性は、ライダーも、走る場所も、用途も選ばない。
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※記事の内容はNo.254(2023年5月24日)発売当時のものになります