KTM 890SMT

KTM 890SMT(2023年モデル)コーナー走行

KTMのSMTブランドが10年ぶりに復活する! そんな前評判だけで実際の排気量も知らされないままイタリアへ渡航。発表されたモデルは890SMT。どうやら890アドベンチャーをベースにしたマシンらしいのだが…!?

文:谷田貝洋暁/写真:谷田貝洋暁・KTM

KTMのスポーツツーリングはツーリングよりもレース寄り!

KTM 890SMTのスタイリング

事前情報いっさいナシ!でも理由があったのだ

ここまでマシンの詳細が明かされない海外試乗会もめずらしい。というのもこのモデルがお披露目されたのは、僕らが現地に到着し、技術説明会が始まってから。事前にはSMTブランドであること以外、車名も排気量も不明という状況で渡欧したのだった。

 

まぁ、KTMによるティザー広告から、なんとなくパラレルツインエンジンを積む890系。それもアドベンチャーがベースっぽい?なんて予想はできたが、海外試乗会で事前予習ができないというのはかなり不安なのだ。

 

というのも僕は英語はからっきし。バイクの話ならなんの話をしているかくらいは聞き取れはするのだが、資料が英語だけとなると…。そんなつたない英語力で技術説明会に臨めば、いきなりヒルクライムレースまがいの映像を見せられ、わずかに聞き取れるのは“スライド”とか“スリップアジャスター”とか“モータースリップレギュレーション”といった恐ろしい単語ばかり。いったい何に乗らされるんだ? と不安になる。試乗にあたってライディングギアはアドベンチャーウエアにバイザー付きのオフロードヘルメットを用意したが、大間違いだった。ヒザにバンクセンサーの付いたレザースーツを用意すべきだったようだ…。

 

試乗に関してもとにかく右へ左へ切り返す目の回るようなコースが用意されており、このクネクネ道を先導ライダーは、かなりのスピードで引っ張る(笑)。だが、ソレに付いていけてしまうのだからビックリである。僕は公道で飛ばすのは得意な方じゃないのだが、そんなつたない僕の技術でも、この890SMTならワインディングを気持ちよくガンガン攻められてしまったのだ。

 

速度に慣れてくるとサスペンションの動きのよさにほれぼれする。コーナーでフルブレーキングしても、脱出でフル加速してもストロークを使い切ることもなければ、その予兆すら感じさせないから、安心して攻め込めるのだ。

 

通常、オンロードモデルのサスペンションストロークは150㎜以下だ。この短いストロークの中でなんとかあらゆる路面に対応し、それでいて乗り心地もいいサスペンションを作ろうとすると、どこかにほころびが出るものだ。ところがこの890SMTは前後180㎜もある潤沢なストロークを使い、峠をガンガンに攻めるようなセッティングをほどこしたことで、タイヤがどれだけ路面を捉えているかが非常によくわかる。ストロークが大きいからこそ、反力が急激に強まるようなこともなければ、ちょっとライディングをミスったところでタイヤが急にグリップを失うこともない。KTMの“READY TO RACE”のフィロソフィーそのまんま。ひたすら目を吊り上げて攻められる。

 

試乗を終えた今なら、KTMのがなぜ事前にマシンの素性を明かさなかったのか? その理由がよくわかる。“このマシンは890アドベンチャーをベースに17インチホイールを履かせたオンロードモデルです”なんてことを前もって聞かされていたら、ヤマハ・トレーサーかトライアンフ・タイガースポーツのような“オンロード寄りのアドベンチャー”という先入観を持ってしまったただろう。

 

ところが大した情報も与えることなく、いきなり山中を引き回すことで、890SMT本来のスポーツ性を、妙な先入観が刷り込まれる前に体に叩き込む算段だったのだ。いやぁ、あっぱれKTM! 実際マシンもそのとおりだった。日本では8月発売予定だ。

 

次ページ:KTM 890SMTのディテールと足つきをチェック!

CONTACT

問い合わせ先
KTMジャパン
電話番号
03-3527-8885
URL
https://www.ktm.com/jp/

※記事の内容はNo.254(2023年5月24日)発売当時のものになります

この記事が気に入ったら
いいね!とフォローしよう

タンデムスタイルの最新の情報をお届けします