“白い矢”という意味のヴィットピレンがその姿を現したのは2014年のこと。3年の歳月を経てようやく我々の前に登場したハスクバーナのヴィットピレン401。白い矢の異名を持つこのモデルをストリート中心に走らせてみた
文:谷田貝洋暁/写真:武田大祐
すべてはこのデザインのために
VITPILEN401のスタイリング
この伊達を貫くには乗り手の覚悟が不可欠
モーターショーなどで見かけるコンセプトモデル。近未来のバイクのカタチの予想図だが、このヴィットピレン401は、それがそのまま出てきてしまったかのようなデザイン。バイクが矢継ぎ早に開発されていた80〜90年代の意欲作ならいざ知らず、ここまで攻めに徹したデザインのまま日の目を見るマシンも今日めずらしい。
このヴィットピレン401を作ったのは、スウェーデン発祥で、現在はその拠点をオーストリアのKTMにおいているバイクメーカーのハスクバーナ。
実は、このヴィットピレン401というマシン。ベースとなっているのは373㏄単気筒エンジンを積んだネイキッドモデル、KTM・390デュークである。エンジン形状やトラス構造が特徴的なメインフレームやスイングアームを見比べてみれば、2つのマシンに多くの共通点が見つかるだろう。いってみれば異母兄弟みたいな存在だが、でもだからこそ弟分であるヴィットピレン401はここまで挑戦的なスタイリングを得ることができたのではないだろうか? デザインしたのは、同じくオーストリアのデザインメーカーであるキスカ。同じ車体プラットフォームを使い、同じデザイナーが異なるメーカーのコンセプトでバイクをデザインする。この矛盾とも思える状況が、かえってこの奇抜なデザインのオートバイを生み出す原動力になったようにも思う。
またがってみて驚いた。見た目からセパレートハンドルのキツそうなポジションは想定していたのだが予想以上。現代のスーパースポーツモデルの方がよっぽどラクな姿勢で乗ることができる。ニーグリップでしっかりとバイクをホールドして下半身を固定。腹筋と背筋を使って前傾姿勢をたもちながら、ハンドルを極力握り込まないようフローティンググリップ…、なんてセオリーを思い出す。ちゃんとニーグリップしなければ操れない久々のバイクである。でもそれがなんだかとても懐かしい。最近の国産バイクは“足つきがいい”“ポジションがラク”“扱いやすいエンジン特性”など。とにかく乗り手に寄り添うような、おもてなしキャラのモデルばっかりなのも事実。
「前傾がキツくないかって? 少々前傾がキツくたって、このデザインが好きなんだからいいじゃないか? おかげで腹筋割れちゃったよ(笑)」そんな伊達を通せるライダーにこそ、このヴィットピレン401はふさわしいのだ。
エンジンはKTMの390デュークと同じと書いたが、走ったときのフィーリングが随分違うものだった。吸排気系が違えば多少のフィーリングが違ってくるのは当たり前だが、もっと根本的なところでキャラクターが変えられている気がする。ヴィットピレンには、390デュークのような低速でガツガツ急かされるような加速はないが、6000回転ぐらいからスパッと伸びていくようなきもちいい加速感がある。エキゾーストノートも390デュークを知っていれば驚くほどジェントルなサウンドに気付くだろう。フライバイワイヤを採用したことで、ECUの設定でアクセル開度に対するバタフライバルブのレスポンスを変えてしまえば、キャラクターの変更などいくらでもできる時代なのだ。ただここまでキャラクターを変えたり、それぞれのメーカーのブランドイメージをきっちりマシンに落とし込めているのは、傘下とはいえ他社の車体プラットフォームを使って、別のメーカーのマシンを作るノウハウがあってこそ。しかも優劣をつけるのではなく、それぞれの個性を際立たせなければならない…。似たようなことをオフロードバイクで長年やってきたメーカーだからこそのクオリティの高さなのだ。
走行フィーリングも“プレミアムモーターサイクル”というハスクバーナのキャラクターに見事に落とし込んでいる。決してKTMのような過激なキャラクターではないが、400㏄クラス(実際には373㏄)の排気量を活かした余裕ある走りが楽しめる。車体に関してもデュークやRCシリーズで長年つちかってきたマシンだから信頼もできる。
あとはやはりライダーを拒絶するようなストイックなポジションをどうとるかである。最初はキツイと思っても、最初の1ヶ月は筋トレだと思って、腕に頼らないライディングフォームを習得することに専念してもらいたい(笑)。ニーグリップによる下半身固定と腹筋・背筋による上体支えは慣れしだいで自然にできるようになるものだ。もしツーリングに出て、手首の関節が痛くなるようなことがあれば、それは上体を腕で支えてしまっている証拠だぞ。
ヤタガイ ヒロアキさんの投稿 2018年6月12日火曜日
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※記事の内容はNo.195(2018年6月23日)発売当時のものになります