本気のモトクロッサー・CRF450Rのレーシングスペックをそのままに、公道を走れるようにしたCRF450Lが登場。1人乗り専用で約130万円という価格にもびっくりだが、なぜこのモデルが今、登場することになったのか? その理由を考察してみよう。
文:谷田貝洋暁/写真:関野 温
ピークパワーにとらわれず溢れるトルクを楽しんでほしい
CRF450Lのスタイリング
2年後にはシート高900㎜超えで再登場!?
「この新登場するCRF450Lと、ダカール・ラリーの関連性について詳しく教えてください」。 CRF450Lの開発責任者の内山さんに対するインタビューにて、開口一番そんな質問をぶつけてみた。もちろん技術説明会でもこのモデルのコンセプトや、ターゲットユーザーの話も聞いている。
モトクロッサーのCRF450Rをベースに、なるべくレーサー要素を損なわずに公道走行を可能にしたモデルであること。ターゲットは「かつてモトクロスを楽しんでいたが、今は遠ざかっている。一方で子どもも大きくなってちょっと余裕が出てきて、トランポを買ってまでコースは走れないけど、トレール車じゃものたりない…、と思っている」ライダーらしいのだが、なんせ価格は約130万円で1人乗り仕様。ホンダの車両で同価格帯のモデルを探せば、CB1100EXが133万8120円。もう20万円出せばアフリカツインのスタンダードモデルが買えてしまう。
ただ林道ツーリングするだけのモデルとしてはハードルが高すぎる。130万円も出して一人乗り。しかも、いくら低速トルクが3.3㎏‐mとトルクの塊のようなバイクとはいえ、馬力でいえばCRF250Lと同じ24馬力。
ホンダの描く購買層と製品がどうも結びつかない。結びつかないというか、どうもわざわざそんな狭いターゲット層を狙って商品を出すことに納得がいかないのである。それにこの車両、現時点での仕様のまま変わらないとすれば、製品寿命はわずか2年間。というのも、2021年の10月以降に生産される継続生産モデルにもABS義務化の波がやってくる。新車でABSなしのモデルがギリギリ出せる最後のタイミングで発売されたわけだが、それにしたってわずか2年間だけ売るためのモデルをワザワザ作るだろうか?
そこで冒頭の質問が出てくる。どうも僕にはこのモデルがダカール・ラリーへの布石に思えてならなかったのだ。
ホンダは2013年、24年ぶりのワークス参戦で復帰。以来5年間にわたってダカール・ラリーに出場しているが、いまだ王者KTMに辛酸を舐めさせられている。本気になったホンダが何故勝てないか? その理由の一つに組織力があるという。組織とは、すなわち人であり、チーム力である。というのもKTMというメーカーには、買えばこのダカール・ラリーをはじめとしたレースに出場できるマシン・450ラリー・レプリカというモデルを販売している。もちろんラリーレイドでは公道も走るため、エンデューロモデルとして売られ、ナンバー登録も可能。350万円という馬鹿高い価格だが、買えばほぼそのままの状態でもラリーに出場できるだけの装備があり、ラリー出場にあたっては、各種サポートが受けられる。つまり僕のような一般ライダーがダカール・ラリーを目指すとすれば、KTMの450ラリー・レプリカを選ぶことが最短コース。さすが2001年以来、17連覇している王者。組織力も盤石なのだ。
そんなKTMから、なんとか勝利をもぎ取りたいホンダ。マシンや技術力では負けていないハズなのだが、もうこうなると、出場者を増やしてパーツの供給力や人材を増やして、組織力を上げることが勝利への道筋というワケだ。
そこで今回のCRF450Lである。僕の開発者インタビューのタイミングでは、結局ダカール・ラリーとこのCRF450Lとの関連性について内山プロジェクトリーダーが明言することはなかった。「このモデルが売れればそういうことがあるかもしれない…」と言葉を濁したのみである(笑)。
欧州仕様はEDモデルとしてすでに規制クリアしている
さて、そんなラリー参戦用モデルを期待する色眼鏡をかけてCRF450Lを見てみよう。モトクロッサーの5速ミッションから、6速化しフライホイールも重めのものを採用。さらには耐久性アップのために、ピストンリングが3枚になり、ピストン形状の見直しで圧縮比も13.5から12へと下げられている。またバルブタイミングを変更してパワーを中低速重視に変更し、ギヤもモトクロッサー海外仕様は現地の交通事情に合わせて130㎞/hぐらいは出せるようになっているらしい。そしてリヤタイヤも18インチ化。…ちょっとモトクロッサーやエンデューロマシンに詳しいライダーなら、この仕様変更は、モトクロッサーがエンデューロマシン化するときのそれと同じであると気がつくことだろう。
しかし、いかんせん気になるのは法規制。2年後のABS装着の義務化の波はどうやっても避けられないワケであるが、実はコレ、回避する方法もすでにある。KTMなどのマシンと同じように、ABS装着が免除される“エンデューロモデル”として販売すればいいのである。ちなみに日本が準拠している欧州連合規則によればエンデューロモデルとは、
①シート高が900㎜以上であること。
②最低地上高が310㎜以上であること。
③最高ギヤでの総合的なギヤ比が(一時減速比×二次減速比×最高ギヤの変速比)が6.0以上であること。
④重さが140㎏以下であること。
⑤1人乗り設定であること。
…をすべて満たすバイクだ。
これをCRF450Lに当てはめてみると、①のシート高は895㎜、②の最低地上高は299㎜でクリアできてないものの、これらの数値はサスペンションやシートそのもののちょっとした仕様変更でクリアできるだろう。ちょっとやそっとの仕様変更ではクリアが難しいギヤ比の③は現時点で7.33、④の重さは131㎏、⑤の乗車定員1名は、現時点で見事にクリアしている。
ちなみに欧州では2016年の1月から日本と同様のABSの義務化をすでに導入済み。つまり欧州でCRF450LはABS義務化の波をうまく回避、ABS未装着のまま売られているというワケだ。
そこで欧州仕様のCRF450Lを見てみると…。シート高は940㎜。最低地上高は16㎜アップで、もちろんABSは装備されていない。つまり、欧州では一足早く、エンデューロモデルとしてABSを装備せずに販売されているということである。これだけの要素がそろっていえば、近い将来、これらの案件をすべてクリアしたエンデューロモデルが日本でも登場する。もしくはラリー用にモディファイされたニューマシンとして登場しないほうがおかしい、とは思わないだろうか?
少なくともすでに日本が準拠する、欧州のABS義務化の波はすでに乗り越え、欧州仕様のCRF450Lはエンデューロモデルとしてナンバーをつけた状態で欧州を走り始めた。加工すればラリーマシンへと変貌するだけの素養もすでに備えている。極秘なのか、公然なのか、もはやわからなくなってきたが、ラリータワーを備えたマシンの登場はともかく、このCRF450Lは少なくともナンバー取得が可能なエンデューロマシンとしてなら、日本国内でも2年後も生き残れそうな気配は十分感じとってもらえたのではなかろうか?
「今の仕様では通りませんね」と内山さんは、2年後に来るABS義務化の波に対してそう答えた。僕にはそれが、「まぁ、見ていてください。そのころにはエンデューロマシンとしてキッチリ仕様変更して売り出しますよ」と、言っているように思えてならないのだ。
どんなモデルか? エンデューロやラリーで勝てるマシンとしての素地はどこまで仕上がっているのか? 試乗記の掲載は来月号(No.199)だ。
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※記事の内容はNo.198(2018年9月22日)発売当時のものになります