競技モデルであるモトクロッサーのCRF450Rを可能な限りそのままに、公道仕様化するという難題に挑んだCRF450L。24馬力という見かけの最高出力数値とは裏腹に、とてつもなくパワフルなマシンに仕上がっていた。
文:谷田貝洋暁/写真:武田大祐
暴力的ともいえる圧倒的なトルクで突き進む
CRF450Lのスタイリング
この強烈なトルクでキチンとレースに出てみたい
ハイ! のっけからナンですが、みんな気になる、排気量がCRF250Lより200㏄も大きいのに、最高出力は同じ24馬力ってどうなのよ? 約130万円もするのに、なんでそれほど非力なマシンなのか? っていう疑問にズバリ答えてしまいましょう。
もうね、数値上は同じ24馬力だけど、扱いやすい、扱いにくいで考えたらCRF450Lは一般的なナンバー付きのトレール車とは別物のモンスターマシンと考えた方がいい。「24馬力!? 非力だねぇ」なんて軽率な発言をされたら、「その非力な24馬力とやらをキチンと扱えるかどうか、まず走ってみなよ?」と返してやりたい。
初心者向けのオートバイ雑誌で言うことじゃないかもしれないが、正直、このCRF450Lは、バイク初心者にはもちろん、これからオフロードを始めようとするオフビギナーにも手放しでおすすめできるマシンじゃない。もちろんおっかなびっくり転がすぐらいの走りなら誰にでもできるだろう。でも積極的にアクセルを開けて楽しもうと思ったら、エンデューロレーサーを買うぐらいの覚悟(とできれば技量)をもって臨むべき。そんなキャラクターなのだ。
ホンダ主催の試乗会当日は、あいにくの雨模様。まぁ、オフロードモデルの試乗だし、ロードセクションはともかく多少の雨はダートなら関係ないだろ。…なんてかる〜い気持ちで走り出したのだが、もう出足の強烈なトルクにビックリさせられる。当日は編集部員のヒラオも同行したのでちょっと舗装路の上を走らせてみたのだが、開口一番「僕これ、怖くてアクセル開けられません」なんて言葉が飛び出すほどだった。
僕自身、走り出して感じたのはトレールマシンというよりは、エンデューロレーサーに近いということだ。舗装路を走り出したのはいいのだが、気がつけばかなりソフトにアクセルを開けているし、体重移動やブレーキングもエンデューロレーサーを公道で走らせているような気分。走れなくはないが、あくまで無理をしないリエゾン区間…、そんな心づもりになっている。
ならばと早々にダート林道へ持ち込んでみたのだが、ここはここで苦戦を強いられた。タイヤが車体の性能にまったく追いついてないのだ。路面がぬかるんでいる、岩盤も濡れている、そんな悪条件ではあるのだが、ちょっとアクセルをあければすぐに強烈なトルクに負けて後輪がすべり出すのだ。
装着されているタイヤはIRCのトレールGP。CRF250LやCRF250ラリーに装着されているタイヤと同じである。もちろんCRF250LやCRF250ラリーで同じようなぬかるんだ路面や雨の林道も走ったことはある。…だがどんな状況であれ、ここまで駆動力にタイヤが負けるようなことはない。
それがどうだろう? ちょっと色気を出してフロントアップをしようと思ってアクセルを開ければ、タイヤが逃げてバイクが真横を向き始める。レーシングスペックの車体が硬い、エンジンがパワフルすぎる、いろいろな理由はあるだろうが、あきらかにこのCRF450Lは、このタイヤとキャラクターが合ってないと感じる。言葉を換えればそれほどパワフルだということだ。
そんな強烈な個性がわかったところで、空気圧を80kPaまで落としてクロスカントリーセクションへ突入。空気圧を変えたのは、もちろん少しでもグリップを確保したかったからだ。
それでも正直、不完全燃焼である。CRF450Lの車体とエンジンは、「俺の実力はこんなもんじゃないぜ?」と、ガンガン主張してくるのだが、いかんせんタイヤが逃げるため、アクセルを開け続けていられないのだ。こいつはきちんとキャラクターの合ったタイヤを用意すれば相当のパフォーマンスを発揮する。そんな確信を持てた。これでナンバー付きなのだから、いやはや、すごいマシンが現れたもんである。
試乗を終えた感想としては、やはり“このマシンは何のために作られたのか?”というところに疑問が残る。少なくとも単なる林道ツーリングで使うにはスペックが高すぎるのだ。
競技オフロードの世界には“日高2デイズ”のような公道である林道を組み込んだエンデューロレースやラリーも存在する。そんなレースにエントリーできる、しかもきちんとした成績を残せるように作られたマシンに思えてならないのだ。CRF450L、こいつとは万全の体制を整えて、また別の形でキチンと走ってみたくなった。
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※記事の内容はNo.199(2018年10月24日)発売当時のものになります