前号ではクローズド環境での試乗をお伝えしたナイケン。今回はヤマハ発動機販売主催による、300㎞のツーリングイベントが開催された。このイベントに同系エンジンを搭載するMT-09を持ち込んで、ナイケンとの違いをしっかりと確かめることにしたぞ!
文:谷田貝洋暁/写真:編集部・ヤマハ発動機販売
NIKENの登場によってライディングに革命が起きている
ナイケンに乗ると脳への負担が減る!?
前回のサイクルスポーツセンターでは革ツナギまで着込んでの限界アタックを行なったナイケン試乗。LMW機構による圧倒的なグリップ力と、接地感の高さからくる走行性能に驚かされた。寝かせても寝かせても怖くない、LMWの恐ろしいほどのスポーツ性にものを言わせて、技量を超えたレンジの走行を行なってしまったくらいだ。
だがナイケンはツアラーである。クローズド環境のサーキットではなく、あくまで公道メインの乗り物である。
ナイケンをツーリングに連れ出したらどんな世界が見えるのだろう? 既存のオートバイとは何が違うのだろう? そんな疑問から、ナイケンとはエンジンが同系で親戚関係にあるMT-09を持ち込み、高速、街中、ワインディングのそれぞれのシチュエーションで取っ替え引っ替え乗り比べてその違いを確かめようと思ったのだ。
果たしてそこまでの違いはあるのか? そんな疑問を胸に走り出したのだが、もう乗り替えた瞬間に相違点が露わになった。普通のバイクに比べて、ナイケンはものすごく運転がラクなのである。とくにMT-09に乗り換えた瞬間に感じるのは、“普通のバイクとは、これほどまでに忙しい乗り物だったのか”ということだ。普通のバイクで走る際、ライダーはバイクから伝わってくるいろいろな情報から、路面状況を把握し、それに応じたライディングを行なっている。とくにスリップが即転倒につながるフロント側の情報には相当ナーバスになっている。交差点の右左折、路面のギャップ通過、それぞれで路面とのグリップ具合の変化を感じて、判断し、アクセルやブレーキ操作を行なってバイクを運行させている。しかも、その接地感に関する情報の量は膨大で、つねに神経を使い、思考能力の何割かがつねに使われている…、なんてことがナイケンから乗り換えた瞬間、「バイクってこんなに忙しい乗り物だったのか」と顕著に感じるのだ。それほどまでにナイケンの運転はラクなのである。
実質的な効能としては、ものすごく視野が広がる。二人乗り時、運転を交代してタンデムシートに座ると一気に視界が開けて、景色を楽しむ余裕ができたり、同じ景色を見ながらも、ライディング中には気付けなかったことまで気付けたりするようになるものだ。程度の差こそあれ、あの視界が広がる感覚と非常によく似ている。これには相当おどろかされた。ナイケンは運転がラク、それも脳への負担が少ない。これは間違いがなさそうだ。
ワインディングにおいても、この視界が広がるような不思議な感覚はきっちりと味わうことができた。路面からの情報に気を取られないぶん、ライダーはその意識をコーナーの先の情報収集や、景色といった別のことに使うことができるのだ。ビギナーにとってはそれが心の余裕になるだろうし、ベテランであれば、その余裕を別のことにつかうことで、より高次元のライディングが可能になる。だからナイケンに乗っただけで運転のレベルが数段上がったように感じるのだ。
実際、LMWによる物理的な安心感はものすごく強い。このツーリングで通過した山間部はすでに晩秋。ワインディングには落ち葉が溜まっていたりするのだが、そんなことおかまいなしで進んでいける。感心させられたのは、山間部にありがちなあまり舗装がよくない別荘地帯を走ったときのことだ。除雪で舗装面が削れたり、うねったりするようなバイクにとっては最悪の路面状況だったのだが、ナイケンならスイスイ走れる。確かにリヤタイヤは時折、路面のギャップに突き上げられる感覚はあるものの、フロント側の接地感がなくならないので、とくに怖いと思うところがない。MT-09ではペースを落としたくなるような場面でも、ナイケンなら路面状況の変化を気にせず、そのままの速度で進んで行ける。
とくにコーナリングの途中に出くわす、舗装の継ぎ目や橋脚の金属ジョイント、マンホールに出くわしたときの反応が顕著だった。通常のバイクに乗っていると、こんな状況を目の前にすると、あっ!っと一瞬体がこわばり、アクセルを戻しながら車体を起こし、ギャップ通過に備える…なんて作業を無意識にしているのだが、ナイケンとなら、「ギャップがある」と認識はすることになるものの、とくにライダーが行なう作業はない。そのまま何事もなくコーナリングできてしまうのである。
だからナイケンに乗ると実質的にペースが上がるのを感じる。MT-09では減速していた部分で減速しなくて済むのだから当たり前である。
ただ不思議と「ならば極限までライディングを突き詰めよう」という気分にはならない。もちろん、やろうと思えばできるし、やれば相当速く走れることも知っているのだが、そういう気分にはならないのだ。このあたりはライダーの気質に関わることかもしれないが、そんな目を釣り上げて走ることよりも、余裕のあるナイケンだけのエクスクルーシブなコーナリングを楽しんでいたい、そう自然に思えてくる。
事実、ナイケンとのワインディング走行は相当楽しい。タイトなコーナリングでも3速のまま不自由なく走ってくれるし、なによりコーナー中にかかる応力で生まれるフレームのしなりを感じながら、右へ左へゆったりとしたシュプールを描いていくのが心地よい。このあたりの剛性への調整は開発陣がものすごく苦労したところだろう。もう少し剛性が高いフレームが与えられていたとしたら、おそらく目を釣り上げたくなったかもしれない。だがあえてそうせず、LMWの圧倒的なフロント接地感に見合うだけの車体剛性を与えながらも、過度なペースアップを引き起こす気にならないような絶妙なフレーム剛性が与えられている。しかも、その領域がきちんと操る感覚が得られて一番楽しめるようにできている。いやはや、こいつはアッパレとしか言いようがない。
ヤタガイ ヒロアキさんの投稿 2018年10月29日月曜日
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※記事の内容はNo.200(2018年11月24日)発売当時のものになります