1966年に産声をあげたW1シリーズ、そしてW3、Wシリーズへと受け継がれてきた“W”の歴史。その消えかけた灯火が、中身を一新して空冷バーチカルツインの心地よいサウンドを再び響かせる
文:TOMO
最新技術を導入しつつ往年の乗り味を継承
W800 STREETのスタイリング
古の名車テイストを受け継ぐ現代のバイク
このW800は、今の技術で生まれ変わった、かつての名車である。並列4気筒のハイパワーバイクが世界を席巻し始めた1960年代末から1970年代中ごろを生きていた、当時としてもクラシカルなバーチカルツインモデル“W1”から“W3”のイメージを蘇らせたもの。特徴は、外観だけやネーミングだけをオマージュしたネオクラシックモデルと違い、その走りっぷりまでかつての“W”の魅力を意識して作り上げられていること。いわば、かなり濃い旧車の味を引き継ぐモデルで、W800の場合は、バーチカルツイン特有のサウンドであったりパルス感、トルク感や従順な応答性など。これらによって生まれる、のんびりとした速度レンジでのおおらかな走りに独特な魅力をかもし出している。もっとも、最初のW1が発売された当時、それは国内最速のスポーツバイクであったのだが、現代においてはあまりバイクに詳しくなくても、このW800を見てスポーツバイクだと感じる人間はほとんどいないだろう。時代の流れである。
今、同じように走りにまで古きよき時代のテイストを盛り込んでいるネオクラシカルモデルでは、並列4気筒ビッグバイクの重厚さを持ったホンダ・CB1100、縦置きVツインのハンドリングを今に伝えるモトグッツィ・Vシリーズ、そして、Wと同じく、かつての高速ツイン、ボンネビルを意識したトライアンフのモダンクラシックシリーズなどがある。
さて、このW800だが、このバイクの魅力を語る上で外せないのがやはりこのエンジン。ベベルギヤ駆動の空冷2気筒OHCエンジンは見ためにも美しい。そこから伸びる2本出しのキャブトンマフラーもまた然り。そして、少し乾いたような、バタバタと野太くも心地いいサウンドを響かせる。その鼓動を全身で感じながら、のんびり走るのが楽しいのだ。しかし、近年ますますきびしくなる排ガス規制などにより、空冷の名車たちは次々と姿を消し、もしくは水冷エンジンで生まれ変わっていった。水冷に比べるとどうしてもエンジン音が大きめになり、燃焼効率もよろしくない。それを持ってしてもあまりある魅力があるのだが、大排気量の空冷エンジンで今の環境基準を満たすのは容易ではない。2016年にW800ファイナルエディションが発売され、つないできたWの歴史にも終止符が打たれるときが来た。往年のWファンたちは、一つの時代が終わったのだと感じたであろう。それが2019年、同じ車体レイアウトのまま基準をクリアした新しい空冷エンジンで復活したのだ。
乗車姿勢は、背筋を伸ばし気味にし、腕を広げるようになる。レトロさをかもし出すスタイルだ。このようにライディングポジションこそやや独特なものの、クセがなく扱いやすい。タイヤ径は前後ともに18インチでブレーキはシングルディスク。直進安定性がよく、かつ通常の速度域で曲がりにくい、止まりにくいと感じることはまずない。そもそもバンク角が浅く、コーナリング性能うんぬんを語るバイクではないが、ワイドなハンドルのおかげで、交差点での右左折やUターンなど小回りを必要とする場面では非常に扱いやすい。
中身は現代の扱いやすいバイクである。旧車のように簡単に壊れたり、頻繁に止まったりということもない。しかし、振動が多めで、乗車姿勢も今時のバイクのような自然でラクなポジションではない。決して乗り心地のいいバイクではないのだが、それも魅力の一つであり、現代に蘇ったWの味なのだ。
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※記事の内容はNo.208(2019年7月24日)発売当時のものになります