昨年、売れに売れたドゥカティ・スクランブラーシリーズに新型が登場する。その名もデザート・スレッド。もともとオフテイストを盛り込んだスクランブラーシリーズであるが、このデザート・スレッドは本気でオフが楽しめる仕様になっているという。さてその実力はいかに?
文:谷田貝洋暁/写真:ドゥカティジャパン
スクランブラーシリーズに本気のオフ車が登場
昨年のエイクマで発表されたスクランブラー・デザート・スレッド。その製品資料を読んだとき、腑に落ちない一文があった。
― デザート・スレッドのフレームは、オフロード路面からの激しい衝撃に対応するために強化されています ―
もちろん、僕自身これまでも既存のスクランブラーシリーズには803cc版も400cc版も乗っている。ただ今回のデザート・スレッドのベースとなる803ccのスクランブラーシリーズは、少々フレームの剛性が高すぎるイメージを持っていた。というのもロードスポーツとしての走行特性を高めるために、ハイスピードな速度レンジにも対応できる高剛性の鋼管トラスフレームとアルミ製スイングアームを採用。それがドゥカティらしいスポーツ性の強い味付けにもなっているのだが、街乗りレベルの低速走行ではちょっとばかしフレームが硬すぎる印象を持っていたのだ。
それはダートセクションでも同じ。オフロードバイクはフレームがある程度しなやかな方がボディアクションの入力に対してタメが作れたり、外乱の影響を車体でいなせて扱いやすくなる。そのため現代のトレールモデルはロードバイクに比べて相対的に剛性の低い車体を作るものだ。
だから、今度の新しいスクランブラーがオフロード性能を高めたモデルとして登場すると聞いたとき、てっきり車体剛性を落として、トレールバイクのようなしなやかなフレームに仕上げてくるのだろうと思っていた…。だが、今手にしているプレスリリースにはまったく逆のことが書かれているじゃないか? それで違和感を感じたのだ。英語の資料にも「Reinfoced tubuler frame(強化した鋼管フレーム)」とハッキリと書いてある。いったいこれはどういうことなのか? 僕はそんな疑問を胸にスペインに向かう飛行機へと乗り込んだのだ。
このニューモデルの試乗会が行なわれたのは、スペイン南部、地中海に面した穏やかな気候のアルメリア。黄色いスクランブラーカラーにラッピングされたバスで連れてこられた試乗会場は、ウエスタン調のテーマパークだった。実際、西部劇の撮影も行なわれるらしいのだが、酒場で技術説明会を行なう凝った演出。遊び心あふれるドゥカティの試乗会は毎度僕らを驚かせてくれるのだが、今回もご多分に漏れずというところだ。
しかして強化フレームである。会場で開発者を捕まえて話を聞いてみれば、やはり既存のスクランブラーシリーズよりもさらに剛性がアップしたという。実車をみてもエンジン左側には、シリンダーを横切るようにフレームが追加されている。スイングアームが取り付けられるピポッドまわりのプレートも幅広となり剛性を強化したという。この仕様はスクランブラーシリーズ中、このデザート・スレッドだけが持つ特徴だ。むむぅ、これでは縦方向のみならず横方向もフレームの剛性が増しているのは確実だ。
ロードバイクとしてヒザも擦れる走行性能
まぁ、なんだかんだと頭で考えても仕方ない。バイクは乗ってナンボ。とにかく走り出してみることにしよう。
ロードセクションの印象は、ドゥカティブランドに恥じないカチッとしたスポーティな走行性能が与えられていた。車体に横方向の応力がかかるワインディングで、マシンを右へ左へと車体を切り返して寝かせるような走りをしても、きちんと楽しめるバイクに仕上がっている。コーナリングのキャラクターは、見た方向へ自然に曲がっていくほどまではロードスポーツ色が強くないが、逆にマシンを積極的に操る楽しさがある。それこそポジションやライディングの好みはあるだろうが、ヒザをするような極端なリーンインポジションでも、イン側のグリップで引き寝かすようなオフロード乗りのリーンアウトでも、コーナー出口で気持ちよくアクセルが開けられるのだ。オフロードマシンと聞いていたが、それ以前にロードモデルとしての素性がとてもいい。
車体を見てみる。フロントタイヤが19インチ化され、幅も太くなった。その足まわりを支えるのは兄弟車に比べて5mmも太く設定したφ46mmの倒立フォーク。サスペンションセッティングも硬めでトレール車やビッグオフのようなふわふわとしたピッチングモーションはなく、おかげでコーナーも攻めやすい。また装着されたタイヤはピレリのスコーピオン・ラリーSTR。このタイヤは単なるオン/オフの兼用タイヤではなく、オフよりもさらにハードな路面での使用も考慮したタイヤとのことだが、ロードセクションでの安心感もバツグンなのに驚いた。おかげでリーンインで寝かしていくのも、コーナー出口でトラクションをかけていくのも怖くないというわけだ。
現代は電子制御全盛だが、このスクランブラー・デザート・スレッドに関してはトラクションコントロールシステムは不要だと思う。あとどれだけアクセルを開けるとタイヤがグリップを失うか? 限界はどこにあるのか? そんなことは機械に頼らずともしっかりバイクが教えてくれる。純粋なロードスポーツバイクであれば、それも当たり前のことなのだろうが、このマシンはオン/オフ兼用のデュアルパーパスマシンなのである。そこがスゴイのだ。
オフロード走行を想定したセットアップなんて聞かされて、てっきりトレール車的なしなやかで、ロードセクションでは攻め込むとちょっと心もとなさを感じる走りのイメージを持っていたが、ロードバイクとしてきちんと作りこまれている。これならオフロード走行をするかしないかは関係なく、高速道路からワインディングまで、オールマイティに楽しめる相棒になってくれることだろう。
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※記事の内容はNo.179(2017年2月24日)発売当時のものになります