ライバルに追いつき追い越せと、年々パワーアップしてきたモンスターシリーズ。気が付けばトラクションコントロールがなければ扱いにくさを感じるような、ハイエンドなマシンへと変貌を遂げている。新しいモンスターは空冷803㏄で近代的な電子制御もいっさいなし。だがそれがいい。モータージャーナリストの和歌山氏がこの新しいモンスターをスペインでテストしてきた
文:和歌山 利宏/写真:ドゥカティ ジャパン
軽くてスポーティな空冷モンスターが帰って来た!
モンスター出現の発端は日本のネイキッドブーム?
初代モンスターの900が世に放たれたのは、93年のこと。もう四半世紀近くも前のことだ。
ドゥカティからのネイキッドモデル登場は、日本で始まったネイキッドブームが引き金になったともいわれている。もっとも、その真偽は定かではない。とはいえ、日本でのトレンドに何らかのインスピレーションを受けた可能性は十分に考えられる。
80年代の中盤から後半にかけて、日本ではレーサーレプリカブームが勃発した。当然、それらのカウル付きのレーシーな高性能車は、ヨーロッパへも導入されていった。
でも、人々はそうした究極化に追従することにうんざりし、日本では89年すぎにブームは終焉。打って変わって、日常域で楽しめるネイキッドバイクのブームが沸き起こった。すでにレーサーレプリカモデルのネイキッドバージョンも登場されていたものの、その当時からは、ネイキッド専用設計車が人々の注目を集めていった。
当時のドゥカティのラインナップといえば、ストリートスポーツの900SSと、水冷DOHC4バルブ化されたスーパーバイクの851(後に888に発展)であり、それらはともにフルカウルを装着。いうなれば、生い立ちはレーサーレプリカである。となると、ドゥカティのバリエーションを拡大するには、それらのネイキッド化という手もある。彼らがそう考えたのは自然な流れだったんじゃないだろうか。
当時のデザイナーであるミグエル・ガルーツィ(現在はピアッジオグループのデザイン長)が、カウリングが外された851がワークショップに置かれていたのを見て、それにヒントを得たのがことの始まりだった。
そして、わずか数日で組み上げられた試作車は、851のフレームに空冷OHC2バルブの900SSのエンジンが積まれていた。
おそらくは、低中回転域がトルクフルな900SSのエンジンのほうが、ストリートバイクには適しているとされたのだろう。加えて、ラジエターやウォーターホース、冷却系の補器類を必要としないシンプルさや軽さが、ネイキッドらしさと日常性を高めてくれるということなのだろう。
ともかく、こうして生まれてきたモンスターはその後、日本はもちろん、ヨーロッパの人々にも好評を博し、今日まで発展してきた。
ただ、発展の過程においては、空冷2バルブユニットで始まったモンスターにも、フラッグシップの水冷4バルブユニットを搭載した高性能な究極形が加えられていった。
それでも、親しみやすさや日常性を大切にしたモンスターの本質に立ち返るには、やはり空冷2バルブであることが大切だったようだ。事実、モンスターの歴史において、究極形が登場した次には、原点に回帰し、空冷2バルブで乗りやすさを追求したモデルも出現してきたのである。
現在のモンスターファミリーには、821と1200のラインナップがある。それらは水冷4バルブなのだが、そこには“ユーロ4をクリアするには空冷では厳しい”という背景がある。空冷ではユーロ4への適合は困難とされ、モンスターは水冷だけになると噂されていたのである。でも、ドゥカティはすばらしい仕事をやってのけたのだ。従来型となる796に搭載されていたユーロ3適合の803cc空冷2バルブに、ユーロ4適合のための改良をほどこし、この新しいモンスター797に搭載したのだ。ちなみに、このユーロ4適合エンジンは、スクランブラーシリーズにも搭載される。実際にこれらでは、空冷ならではの軽さとシンプルさが、バイクを扱いやすく身近な存在にしてくれている。
この797は、単なる従来型796の後継型ではない。車体も一新されたまったくのニューモデルだと言っていい。全体がトラス状に組み合わせたスチールパイプで構成されるフレームは、ドゥカティらしさを強調するだけでなく、ビギナーさえもが気負うことなく乗れるハンドリングを実現。ユーロ4に合致させたためか、最高出力は15ps低い72psに留まるのだが、それさえをも、より日常性を重視したキャラクター実現に活かし切っている。
その意味で、原点回帰を超越した新しいモンスターの出現なのである。
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※記事の内容はNo.181(2017年4月24日)発売当時のものになります