ヤマハの人気ネイキッド・MTシリーズの長兄がついに国内でも販売される。しかもこれが、YZF-R1からカウルを取っただけのモデルという単純な話ではなかったのだ
文:谷田貝洋暁/写真:武田大祐
“キング”の名がふさわしいMTのフラッグシップが誕生
ウェットでも攻められる絶妙な電子制御
のっけからなんだが見てのとおり。前を走るバイクの後輪に水柱が立つほどの雨である。インプレッションの天候としては最悪。残念だがマシン本来の持ち味はほとんど味わえていない。
ただ最近のマシンがスゴイのは、トラクションコントロールやABSの進化のおかげで、こんな絶望的なコンディションでもそこそこ走れてしまうことにある。もちろんだが僕の運転がうまいわけじゃない。MT‐10が走らせてくれているのである。乗り手はもうトラクションコントロールを信用して、“当てにいく”走りをしているだけ。
最新モデルのトラクションコントロール装置のインプレッションは、限界点の探り合いからスタート。走りをかさねてトラクションコントロールが介入し始めるタイミングや、最終的にストップがかかる状況さえ見極められれば、それありきの走りに頭を切り換えられるというワケだ。
まぁ、ひと言でいえばバイクに頼り切ってアクセルを開けてるだけなのだが、路面がスリッピーなウェットコンディションなら、レーシングスピードで走らずとも、トラクションコントロール介入の具合がよくわかるというワケだ。
さてMT‐10の場合。コーナリング中にアクセルを開けていくと、それとな〜くトラクションコントロールが介入してくる。インジケーターが光るわけでもないので、疑ってかからなければ気付かない。ドライだったら、「なんだかオレ、乗れてるじゃん!」などといい気になれる、そんな自然な介入だ。
そこからさらにもう一段階。瞬間的にアクセルを開けたり、路面のギャップをひろったりして、「ニュッ」と後輪が空転すると、その一瞬後に大きくトラクションコントロールが介入して「おいおい無理すんな!」とたしなめられる。ただ妙な失火感をともなう介入ではないので、そのままマシンを寝かせ続けられのが、最近のヤマハのトラクションコントロールのすごいところだ。
そんなことを繰り返してマシンを信頼できるようになれば、あとはオンザレール。ウェット路面だろうとドライだろうと、がっつりアクセルが開けられるようになる。
それこそ慣れてくれば、「アクセル開度に対して加速が頭打ちなのは、それとな〜くトラクションコントロールが介入しているからなんだろうなぁ…」。なんてことを、バンク中に考える余裕すら出てくる。…このウェットコンディションの中でである。
いやはや、おそろしい時代がきたもんだ。ただ、これだけは言える。このMT‐10となら旅先で雨に降られようが、路面温度が低かろうが、鼻歌まじりで旅を続けられることは間違いない。次はぜひともドライコンディションで乗ってみたいものだ。
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※記事の内容はNo.181(2017年4月24日)発売当時のものになります