近未来感あふれるルックス内にフレンドリーさを備える
シングルスポーツの爽快感をより多くの人に
プレゼンテーションで印象に残った部分を列挙していくと、前後サスペンションは新設計で倒立フロントフォークはカートリッジ式に。ディスクローター径をアップ。エンジンは基本大きく変わっていないが、ライドバイワイヤを採用しエアクリーナーボックスを大型化。マフラーは環境基準ユーロ4に対応したサイレンサー別体式。フレームはシートレール部がボルトオンの新設計ながら、基本ディメンションは先代とほぼ同じ。ライディングポジションは変更され、着座位置がわずかにハンドルに近付いたのと同時にタンデムシートとの段差がなめらかになり体重移動しやすくなった、などだ。
気になっていた車重増加の理由を尋ねてみるとLEDヘッドライト(中央の仕切りが冷却用の金属製ヒートシンク)、金属製ガソリンタンク、ディスクローターやマフラーの大型化などによるもの。必要な改良をほどこした結果の重量増であった。だからといってKTMはそれをよしとはしていない。なるべく運動性能に影響しないよう、できるだけ車体の中央部に寄せるよう設計していることが見て取れる。いわゆるマスの集中化である。その効果は試乗で明らかになるはずだ。
翌日は朝から青空が広がる絶好の試乗日和。マシンにまたがると最初にシート形状のよさを実感した。左右が絞り込まれているのとクッション性が高いことから、30mmアップのネガはほとんど感じられない。足つきは座面がフラットでスポンジが硬めだった先代とあまり変わらない印象で、座り心地は新型のほうが上だ。さらに好感を持ったのは金属製になったガソリンタンクの形状。柔らかな曲面で構成されているためニーグリップしやすく、マシンとの一体感を得やすくなっている。
エンジンを始動して最初に感じたのはアクセル操作に対する追従性のよさだ。軽く開けるとアナログを模した液晶タコメーターのバーがおもしろいように跳ね上がる。軽いクラッチレバーを握り1速に入れ、歯切れのよい排気音に押し出されるようにスタート。低い回転域からトルクが出るので車重が増えたという感覚はまったく感じない。また低中回転域での感触は一呼吸置いてダダダッ!と弾けるように加速する先代に比べると、よりなめらかになっている。と言っても牙を抜かれユルくなったた訳ではない。レスポンスの鋭さはそのまま細かい振動などの雑味を取り去り、高回転型単気筒エンジンの持ち味がよりクリアになるよう磨き上げた感じだ。これは新たに導入されたライドバイワイヤの効果が大きいと考えられる。エンジンの扱いやすさは確実に向上している。
同時にレベルアップを感じたのはサスペンションだ。動き始めからしなやかなので、低速時でも石畳などの細かいギャップを吸収し乗り心地がよい。また路面が荒れた峠道でも車体のブレを最小限に抑えてくれる。怖さを感じにくいので、リヤタイヤにトラクションをかけ車体を安定させながらコーナーを抜けるという動作が格段にやりやすい。さらには切り返したときの車体の落ち着き感も増している。ハンドリングがより安定したのは車重増がうまく影響しているように感じた。
ローターが320mmに大径化されたブレーキは、軽量な車体を減速させるのに必要十分な容量を持つ。なによりブレーキレバーが5段階調整式になったことがうれしい。レバーの厚みが増しフィット感も高いので、結果としてコントロール性が向上している。
すべての操作に対しリニアに反応するため、初めて乗ったにも関わらず新型390デュークはすぐに体に馴染んだ。シンクロ率は非常に高いといえよう。このコントロール性の高さは、交通ルールに不慣れな異国の市街地やワインディングロードをハイペースで駆け抜けるスタッフの後を追うときに大きな力となったのは言うまでもない。また路面の凹凸を適切に処理しライダーに不安感を抱かせないサスや安定性が高い車体などにより、狭い峠道でも気持ちに余裕ができ、欧州映画のような壮大な景色を満喫できたことも記しておこう。
新型390デュークで異国を丸一日走った感想は“先進的でアグレッシブなスタイルの中に、幅広いスキルのライダーを包み込むやさしさを備えている”ということ。KTMは先代の390デュークが確立したシングルスポーツの爽快感を、より幅広いライダーが味わうことができるマシンへと昇華させた。多くの人にこの乗り味を体感してもらいたいと素直に感じた。日本への導入が待ち遠しい一台である。
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※記事の内容はNo.181(2017年4月24日)発売当時のものになります