オーストリアのバイクメーカー・KTMのアドベンチャーシリーズが大幅にラインナップを改変。1190シリーズがなくなり、1,301ccへと排気量アップして1290シリーズへと進化した。今回はロードスポーツ性の高い“S”を高速道路からダートまでしっかり走らせてきたぞ。
文:谷田貝洋暁/写真:関野 温
排気量アップだけに留まらない大幅な進化を遂げたADV
スタイリング
排気量だけじゃない車体も大きく変化している
先代の1190アドベンチャーからエンジンは排気量が1301㏄へとアップして、車体はデザインと足まわりが変わっている。…その程度の知識しかないまま、ひとまず走り出してみたのだが、まるで別物のような新型の乗り味に驚かされた。
まずエンジン。キャラクターにガツガツ感が少なくなった。KTMのフィロソフィはREADY TO RACE。乗れば誰もが目を三角にして走りに没頭する。スポーツバイクのRCシリーズやデュークシリーズはもちろん、KTMのすべてのマシンにこの思想が込められている。
それはアドベンチャーツアラーである同シリーズであっても変わらない。先代もご多分にもれず、走り出せばアドレナリンが吹き出し、思わずダカール・ラリーへと思いを馳せてしまうようなアグレッシブなキャラクターだった。もちろん、新型のアドベンチャーにもREADY TO RACEを感じさせる部分はあるのだが、“ツアラー”としての快適さが格段にアップしている。排気量拡張にともなってパワーに余裕ができたことも大きいのだろう。攻めの走りだけでなく、大きくかまえて長距離を行く走りも、両方できるようになっている印象だ。
また、車体はロードセクションでの走りに軽快感が増した。これは先代の1050アドベンチャーが導入したキャストホイールを採用したことが大きいのだろう。これだけ大きな車格をタイトなワインディングで振り回す楽しさが十分味わえる。
それに電子制御まわりもかなりの進化を遂げたようだ。数年前、ボッシュ製の慣性計測センサーを搭載した1190アドベンチャーが登場したとき、そのMSC(モーターサイクル・スタビリティ・コントロール)に度肝を抜かれた。MSCとは、マシンの速度やバンク角に合わせてABSやトラコンの介入度を変えて転倒を防ぐという画期的な装置だ。これによりライダーは、直線だろうと、コーナーだろうと積極的なマシンコントロールが可能になった。実際、サーキット上でバンク中にブレーキをにぎってみたり、アクセルをガバ開けしてみたのだが、なにをやっても加速なり減速なりのまま、安定し続けることに感動した記憶がある。
今回のモデルは、そこからさらに電子制御系を強化。トラベルパック/オフロードパック/KTMマイライドといった追加オプションの機能がすべて盛り込まれた豪華仕様ではあったものの、走らせてみると、根本的な電子制御そのもののレベルがベースアップしていると感じる。どう変えたかというアナウンスはないが、“よくなった”とすぐに違いに気付くほどだからよほどのことだ。
電子制御サスペンションも違いがものすごくわかりやすくなった。スポーツモードにすればキチンと硬めのセッティングになるし、コンフォートにすればやわらかくなる。当たり前のことなのだが、その変化が少なすぎて感じ取りにくいモデルも多い。その点、この1290スーパーアドベンチャーSは、ハッキリと足まわりのセッティングの違いが体感できるのがいい。顕著なのは、電子制御によるプリロード調整。一人乗り、2人乗り、荷物有無などによって初期の沈み込みを切り換えられるのだが、適した設定を選ぶと高速走行でフロントまわりの接地感が強まり、それが“正解”だとよくわかる。
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※記事の内容はNo.185(2017年8月24日)発売当時のものになります