アンダー400 No.85掲載車両(2020年11月6日発売)
ここ数年、125㏄クラスで盛り上がりを見せているのが“レトロ&スクランブラー”モデルだ。海外メーカーのモデルが多く、着実に選択肢が増えている。今回はマットモーターサイクルズのヒルツ125をチョイスし、その実力を検証していく。
文:谷田貝洋暁/写真:関野 温
コイツと一緒に日常から大脱走だ
マシンのイメージはS・マックイーンの愛機
ファンティックのキャバレロシリーズ、SWMのアウトロー、そしてマットモーターサイクルズの125シリーズなどなど。主戦場はあくまで海外マーケットであるものの、ドゥカティのスクランブラーシリーズに端を発する“スクランブラーブーム”が日本のU4界にまで波及してきている。
125㏄クラスのスクランブラーは、ビンテージオフ風のスリムでコンパクトな車体に、軽量な単気筒エンジンの組み合わせが多いようだが、そもそもこのコンポーネントは定番中の定番。かつて日本国内で流行したFTRやグラストラッカー、250TRなど、1990年代後半から2000年代前半のいわゆる“ストリート系”が海外を経由して125㏄クラスへとたどり着いた感じ。当時を知るライダーからすると、聞きなれない“スクランブラー”というジャンルなのに、どこか懐かしさを感じる車両も多い。
さて今回紹介するマットモーターサイクルズは、そんな最近元気な125スクランブラー海外勢の中では、ちょっ変わった由来を持っている。そもそもマットモーターサイクルズとは、メーカー名である以前にイギリスの有名カスタムバイクショップの屋号。ビンテージマシンのカスタムを得意とし、多くの車両を手がけてきたカスタムビルダーが、より多くのライダーに“最初からフルカスタムされたような”ビンテージテイストあふれる車両を“手ごろな価格”で提供したいというところからスタートしたのだ。
なのでラインナップも特徴的。125㏄と250㏄の排気量別にモデルラインナップしているものの、基本的にベースとなるシャーシはほぼ共通の仕様。125㏄クラスにしても、モングレル・ヒルツ・RS-13など名前は異なるが、フレームとエンジンは共用しており、ホイールサイズやタイヤの銘柄、ハンドルポジションなどを変えることで、それぞれの個性を打ち出している。シリーズの中でヒルツ125は、マットグリーンのガソリンタンク、ブロックパターンの強いタイヤ、ワイドなブレース付きハンドルバー、グリルガードのついたヘッドライトなどを装備しているのが特徴だ。
ちなみに車名のヒルツは、1963年のアメリカ映画『大脱走』に出てくる主人公格の役名。…なんて説明するより、あのスティーブ・マックイーンが鉄条網を越えようとジャンプしたときの役がアメリカ空軍のヒルツ大尉だったといったほうが通りがいいだろう。ただ車両を見てみると、大脱走で使われた劇用車のオマージュというよりは、マックイーンがデザートレースで使っていたトライアンフのカスタム車両の方がイメージに近い。いずれにせよこのマットグリーンの塗装と、ヒルツという名前だけで“ああ、マックイーンね!”とわかる人にはわかるのだ。
5速125㏄のエンジンは正式発表はされていないもののスズキ製で、125はGN系、250はグラストラッカー系のよう。スズキ製エンジンと公表してしまった方が“ならば安心!”と日本のライダーにはアピールになること間違いなしだが、そうしないのはなにか事情があるのだろう。
乗ってみると、やはり乗り味も出生がカスタムバイクというルーツを感じる。ただ、もともとがコンパクトな車体に扱いやすい単気筒エンジンという組み合わせのおかげで、正直どうにでもなる感じ。ライダーによってはこの太いブロックパターンタイヤ由来と思われるハンドリングで好みが分かれそうだが、僕自身はコーナリング中はハンドルを抑えず、割とバイクなりに曲がるタイプなので違和感なく走れた。ただ、確かにあまり攻めて曲がるようなマシンではないことは確かである。
さて、こんなナリなものだから、もちろんダートも走ってみた。まぁ、オフロード性能を求めたというより、ビンテージオフロード風を目指したゆえのこのスタイルであることは百も承知。ただブロックの大きなタイヤにスポークホイール、スリムな車体に幅広のハンドルなんてパーツを組み合わせたなら、作り手がオフロード性能なんて微塵も求めていなくても、ダートで遊べる適正がある程度生まれるものなのだ。
実際、無理さえしなければそこそこフラットダートで遊べる。少なくとも、出先で畦道程度の砂利道に出会ったところで引き返す理由にはならない程度の走破性は持ち合わせていた。
なにより、この名前とスタイリングなのだから、マックイーンに敬意を評してジャンプの一発ぐらいは決めてみたくなるってもんだ。実際の性能がどうとか、堅苦しく考えず“カッコいいんだからそれでいいじゃん?”と思える遊び心。これこそがマットモーターサイクルズの魅力だ。
MUTT MOTORCYCLES HILTS125のディテール
GOOD POINT
MUTT MOTORCYCLES HILTS125のソフト面をチェック
乗車姿勢
足つき性
取りまわし
Uターン
MUTT MOTORCYCLES HILTS125のタンデムランチェック
ジャンルを問わず二輪好き淺倉が斬る
独特なハンドリングのマシン
“おっ!? カッコイイ!”。でも、どうしても納得できない部分がある。それは独特なハンドリングだ。ワインディングでコーナーに進入。マシンをバンクさせようとすると、ステアリングが逆らうような挙動を示すのだ。“ステムの動きが悪いのか”と思ったが、そういうことでもなさそう。車体なのか、タイヤなのか、原因を細かく検証することはできなかったが、ともかくこの独特なハンドリングは自分の好みではなかった。でもカッコイイのだ。日常の足に使ったらオシャレじゃないか? あえて、ツイードのジャケットとか着て乗ったらキマる。空冷単気筒エンジンも粘りがあって扱いやすく、好印象なの だが…。
ベテランオールラウンダー濱矢が斬る
気持ちいいエンジンフィール
つるしの感じがしない見た目と、手軽に乗れる125㏄クラスなのがミソ。またがるとシートが低くコンパクト。空冷4ストローク単気筒エンジンはパワーデリバリーが実にスムーズで、吹け上がりもシフトチェンジもなめらか。日常的な使い方をちゃんとこなせる動力性能がある。乗車して体重をかけただけではほとんど沈み込まない硬いリヤショックだけど、ペースを上げれば動いてくれる。18インチで前後同じサイズのタイヤを履く前後足まわりの影響もあり、セルフステアが入りにくいクセのあるハンドリングをどうとらえるかで評価が変わるだろう。飛ばしたい派には向いていないが、純粋に“走る”という部分は問題ない。
MUTT MOTORCYCLES HILTS125のスペック
- 全長×全幅×全高
- 1,960×810×1,115(㎜)
- 軸間距離
- ―㎜
- シート高
- 780㎜
- 乾燥重量
- 105㎏
- エンジン型式・排気量
- 空冷4ストローク単気筒・124㎤
- 最高出力
- 8.9kW(12㎰)/―rpm
- 最大トルク
- 10N・m(1.0kgf・m)/―rpm
- 燃料タンク容量
- 12ℓ
- タイヤサイズ
- F=4・10-18・R=4・10-18
- 価格
- 53万3,500円(税込)
MUTT MOTORCYCLES HILTS125 製品ページ
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- ピーシーアイ
- URL
- http://www.muttmotorcycles.jp