鉄馬(バイク)ではなく、本物の馬に初めて乗った。「初めて」だからこそささいなことでも新鮮で感動できるようである。足をかけてまたがろうとする時、当然馬は生きているので背中が動いている。動く背中にまたがるなんて、幼少時代に父親の背中に乗せてもらって以来のことである。もたもたしながらなんとかまたがり、発進の仕方と手綱操作の説明をひととおり聞いたところで一回練習することになった。
「はい、進みましょう」と言われて馬の脇腹を蹴る。コン。…もう少し強めに、コン。「馬の皮膚は分厚いから、思い切って蹴っていいですよ」え〜、もっとですか? そう言われても、痛そうで…ガツッ。ひぇぇ〜馬さんごめんなさい!と思ったら動いてくれた…ホッ。「では、左に曲がってみましょう」はいはい、左ね、えーと…手綱の左側を引く。するとゆっくりと馬が左に歩いていく。うわ〜感動である! 「その調子で、こんどは右を向かせてみましょう」クイッと右の手綱を引くとこんどは右に歩いていく。「はい、じゃあ一旦止まりましょう」クイッ。両方の手綱を後ろにひく。ぎゃ〜止まった! 声にこそ出さないが、心の中では大騒ぎである。これだけでも十分楽しめている私だったが、でもここからがホントのお楽しみなのである。「では、外をグルッと一回りしてきましょうか」そうなんです、自分の操作で普通の道を散歩できるのです! (あ、もちろんド素人なので万が一に備え、脇に牧場の方がついていてくれます)「さあ、行きましょう!」散歩開始!…コン。…ありゃ。コツン。えいっ、ガツッ。「カポッ、カポッ…」ホッ。いやはや、発進はなかなか慣れません(苦笑)。
「カポッ、カポッ…」馬のゆっくりだけどがっしりとした骨や筋肉の動きが乗っているこちらにも感じる。バイクはエンジンの鼓動が伝わってくるが、馬はふんばる足の振動が伝わってくる。目線が高いので見晴らしもよく、馬の背から見る景色は最高である。だからときどき、用足しをするのもご愛嬌というものだ(糞はあとで牧場の人が車で回収します)。おもしろいのが、馬って、上り坂でちょっと歩き方が元気になること。聞いてみると「馬の頭が重いので、上り坂のほうが歩きやすいようですね。逆に下りは慎重になります」とのことだった。上り坂で元気になるなんて、うらやましい限りである。道ばたには草が生い茂っている。馬は道草が好きなようで、たびたび馬の首が草むらへと伸びていく。これを一度許してしまうと馬が言うことをきかなくなってしまうそうなので、ここは心を鬼にして、首が伸びたら「ガマン、ガマン」と手綱を引いて先を促す。そんな偉そうな指示を出しながら、実は「チェッ、こんな奴の言うことなんて聞いていられるかい」といつ馬に見透かされて暴動が起こるかと内心ヒヤヒヤしていたのだが、そこはさすが、自分の仕事をきちんをわきまえているようで、無事牧場まで帰ることができた。いや〜乗馬って楽しい♪
また降りるときに靴がひっかかったりしてもたもたしながら降り、馬にありがとうと言いながら鼻筋をポンポンとすると、チラッと横目でこっちを見ただけで鼻をブルンと鳴らして去っていった。今回は乗るというより乗せてもらった感じだけど、お世話とかきちんとして心を通わせた馬にまたがって走ったら、さぞかし気持ちいいだろうな〜とちょっと想像してしまった。何はともあれ、いい経験をしたな。