華厳の滝、水量50倍増しで営業中!

職業柄、何かを読んでいたりすると誤植を見付けることが多い僕ら。
ちなみに誤植とは、活版印刷において版木である組版をつくる際に“誤った”活字を“植字(しょくじ)”することからきているが、現代では誤字脱字の類いをまとめて誤植という。まぁ、僕自身もけっこうタイピングミスや変換ミスをしてしまう方だけど、雑誌作りの工程のなかで、“校正(こうせい)”という間違い探し的な作業を毎回行なっていることもあって誤植を見付ける目はそれなりに養われている。実際、新聞や小説、博物館などの展示説明を読んでいると、意外と世の中の出版物には多くの誤植(ごしょく)を見付けるもの。まぁ、もちろんタンスタもそのなかに含まれるのだが…(汗)。

さてここからが本題。
先日、ものすごい誤植を見付けてしまったのだ。台風12号が各地で猛威をふるうさなか、日光の華厳の滝を観に行った。たまの家族サービス「ワンデイの日帰りだから日光あたり? 何だか川の水がすごいことになっているし、こんなときは華厳の滝がおもしろいんじゃないか?」という行き当たりばったりのドライブである。

さて場面はすでに華厳の滝。観望台へと向かうエレベーターに乗り込んだところだ。華厳の滝を紹介するモニターがあり、四季折々の華厳の滝が映し出されていたのだが。ふと、下部に流れるテロップに目がいった。
「…華厳の滝の水量は、平均で毎秒2トン。現在の水量は毎秒94トンで、只今、大迫力の華厳の滝がご覧戴けます…」一言一句覚えているワケではないが、そんな内容だったと思う。毎日、現在の水量だけ新しく打ちなおしているようでそこだけ字体が違っており、「うーん、9.4トンの間違いだろう? 毎秒2トンに対して94トンっていったら約50倍! そいつは大事だな」なんて笑っていた。

 

…ところが、である。

 

毎秒2トンの平常時に対し50倍以上。毎秒105tの水量で流れ落ちる華厳の滝。“華厳”というより、海じゃないけど“怒濤”って感じ…

 

エレベーターを出て、目の当たりにした華厳の滝は、絵はがきや以前観たことのある華厳の滝じゃなかった。華巌の滝というと、周囲の岩場や流れる沢の景観とあいまって、文字どおり“厳かな”雰囲気がウリの滝だったと記憶している。ところがどうだろう? 目の前にあるのは華厳のケの字も感じないあまりに暴力的な風景。滝口から落ちる…というか吐き出される水柱。滝壺や周囲の風景は自身の水しぶきで白くかすんでしまっている。見たことはないが、イグアスとかナイアガラの滝もこんな印象なんじゃなかろうか…。5倍や10倍程度の増量具合じゃないことは火を、…いや水を見ただけで明らかだ! 笑えないギャグはさておき、人間は理解を超えたモノに出くわすとなんだかよくわからない笑いがこみ上げてくるものである。

アップで見るとこんなカンジ。もう岩肌が、水煙で見えない

「え? もしかして94トンって誤植じゃないの?」。笑いが収まると頭のなかでにわかに疑問が再浮上してきた。真相を知るべく売店のおばちゃんに話を聞いてみると、「12年間この仕事をしているけど、こんな水量は初めてだねぇ。表示されている数字は94トンだけど、今は105トンになったって連絡があったところだよ」
エレベーターで見たモニターの文字に間違いはなかったのである。それどころかさらに増水して50倍以上となっているとは…。いやはやいいもの見せていただきました。(「華厳の滝」「台風12号」で検索すれば、そのときの動画や画像がネットに転がっているので興味のある方は是非!)

今度は、引きでごらんあれ。下流の川の水量がハンパない。魚たちはどこへ避難しているのだろう…

でもねぇ、間違いの悔し紛れに言うのもなんですが、50倍も増水しているならそれなりの文章を書かないと多分、読み手に真実は伝わらないよなぁ…。タンスタの校正だったら間違いなく“要確認!”って赤字を入れて担当編集者に突き返しているところだよ!

あ、ところで文中の誤植の箇所に気付いたかな?

 

最後に、上流の“龍頭の滝”もご覧あれ。どこが龍の頭なのかねぇ?
やたぐわぁ

written by

やたぐわぁ

本名/谷田貝 洋暁。「なるようになるさ」と万事、右から左へと受け流し、悠々自適、お気楽な人生を願うも、世の中はそう甘くない。実際は来る者は拒めず、去る者は追えずの消極的野心家。何事にも楽しみを見いだせるのがウリ(長所なのか? コレ)だが、そのわりに慌てていることが多い。自分自身が怒ることに一番嫌悪感を感じ、人生の大半を笑って過ごすことに成功している、迷える本誌編集長の44歳。

このコラムにあなたのコメントをどうぞ

この記事が気に入ったら
いいね!とフォローしよう

タンデムスタイルの最新の情報をお届けします