魚という漢字は、一般的に「さかな」と読むわけですが、この「さかな」という言葉はもともと「肴」、つまり「酒のツマミ」という意味なのですよね。肉でも野菜でも魚介類でも、酒のツマミとして楽しむ料理は、すべて「さかな」だったと。例えるなら、ビールを飲むときの枝豆も「さかな」。ワインと一緒に楽しむチーズも「さかな」。ツマミとしての料理は、ぜ〜んぶ「さかな」だったわけです。
しかし、この「さかな」として出てくる料理は、日本のことですからたいがい魚介類だったわけです。日本の酒と相性のいい食材といえば、やっぱり魚介類ですよねぇ〜。そこで、だんだんと魚(うお)のことを「さかな」と呼ぶようになったのだそうです。これ…、たしか浪人時代に古文の授業で聞いたことでした。こういう、食い物系の話題はよく覚えてるんだよなぁ…。我ながらホント、食い物のことだけは記憶力がいいなぁと思います。開き直りついでに、酒にまつわる古文で覚えているのがもう一つあるんですよ。ちょっとうろ覚えだったのでこのコラムを書く上で原典を調べ直したのですが、それは『徒然草』の一節でした。
とある人が、夜遅くに偉い人の家からお呼びがかかったので参上すると、主人はお銚子と杯を持って出迎えてくれるんです。「この酒を一人で飲むのが寂しくて呼んだんだ〜」と。「でもさ、ツマミがあるかどうか…。家のもんはみんな寝ちゃったから、ちょっと台所を自由に探してみてくんない?」と言われ、男はろうそくに火をともして探してみると、小皿に味噌がちょびっとだけついているのを見付ける。「あの、これを見付けました…」と言うと、主人は「うん、いいよいいよそんなんで」と言い、二人で味噌を舐めつつ、酒を酌み交わした…と。
おいおい、なんですかこの「ホノボノ日記」! この話はどうやら1200年代とか、そんな時代らしいのですが…すんげーノホホン具合。親しみ湧いちゃうじゃないかご先祖様! 何かね〜、その「小皿についてた味噌を舐めながら酒を飲む」っての、なんだかウマそうなんですよね。昔の夜って相当に暗かったでしょうし、せいぜいろうそくの火くらいの明かりだったと思うんです。家の人たちがすっかり寝静まった時間帯に、コソコソとろうそく点けて、男だけで味噌を舐めながら酒を飲む…。なんか楽しそうじゃないですか。仲間に加わりたい。
まぁ、今回のコラムで何が言いたいのかというと「昔の人萌え」とでも言うんでしょうかねぇ(笑)。昔のほほえましい話って、なんか、なごみませんか。昔の人だって、そりゃ酒を飲むときにはツマミがほしかったんですよねぇ。いつの間にか魚(うお)が「さかな」に変化しちゃうくらい、しょっちゅう魚をツマミにして酒飲んでたんですよね…。でもって、どうも深夜に酒が飲みたくなって部下を呼びつけちゃったりする人もいて。「家の人起こすのも何だから、台所探してみようよ」って言って、暗い部屋でコソコソ探し回ってる姿を想像すると笑ってしまいます。ホント、今も昔も、人ってのは対して変わっちゃいないんだなと思います。文明は大きく変化したかもしれないけど、別に人は変わっちゃいない。一緒に酒を酌み交わしたら(どぶろくみたいなやつでしょうね)、楽しいだろうなと思います。
実は今、タンスタの姉妹誌『レディスバイク』の〆切まっ最中でして、「これが終わったら飲むぞー」なんていう思いから、こんなコラムになりました。さて、もうひとふんばりです。