390DUKEという新車の試乗会のためにオーストリアのザルツブルグまで行ってきた。気になるニューモデルの試乗記は次号のタンスタを楽しみにしてもらうとして、ここではKTMのはからいでザルツブルグ郊外にある本社を見学する機会をもらえたのでそのことを書こう。
KTM=ケー・ティー・エムは、1953年創業とブランドそのものの歴史は長いが、現KTMが首脳陣も新たにリスタートしたのは1992年とわずか20年ほど前。どちらかというと短い期間で急成長した新進気鋭のメーカーという印象がある。「READY TO RACE(すぐさまレースへ!)」を開発コンセプトに大排気量のロードスポーツやハイスペックなオフロードモデルをリリース。またレース好きならダカールラリー常勝メーカーとして、また草エンデューロレース好きならオフロードバイクを世界一売るメーカーとして知られている。こういうのもなんだが、少し前までビギナーの味方たるタンデムスタイルにはあまり縁のないバイクメーカーだった。しかし、近年は125/200デュークといったミドルクラスのロードマシンにも力を入れており、タンスタ読者のなかにもそのオレンジカラーを目にしたことのある方もずい分と増えたんじゃないだろうか?
これら市販ロードモデル、もちろんミドルクラスのマシンにも、もちろん「READY TO RACE」の基本理念は行き届いており、乗ればエキサイティングでエンスー好みというか、ひとかどならぬ熱さみたいなものを感じたものだが、本社に行ってみてその“熱さ”理由がわかった気がした。試乗会や本社見学ツアーで出会う、開発スタッフ、役員、工場職員、あらゆる人がバイク好きであり、自社ブランドを愛しているのをヒシヒシと感じるのだ。会う人会う人、「あなたもバイクに乗るのですか?」と聞いてみれば、待ってましたと子供のように目をキラキラとさせながら「おれは990㏄のなにがしに乗っているんだ! いいばいくだぜ」とか、「私もオフロードを走りますよ」なんて回答が間髪入れず帰ってくるから、一人のバイク乗りとしてなんだかうれしくなってしまう。
バイクメーカーのスタッフである前に一人のバイク好きであるというかなんというか…、「バイク好きがバイク好きのために、楽しいバイクをあれこれ考えて作る」。ごく当たり前のことのようだけど、日本ではあまり感じたことのなかった感覚だ。3ナイ運動だなんだと、あまりにも世間がバイクを“悪者”として冷遇する時代が長かったからかもしれないし、「趣味は趣味、仕事は仕事」と割り切ることをよしとする、日本という国の風土がそうさせるのかもしれない。だけどバイクは趣味の乗り物だ。すべてのライダーは楽しんだり、高揚した気分を味わいたくて、バイクを走らせるのだと思う。
音楽興味がない人が作った曲や楽器はいくら完成度が高くても絶対に楽しくはない。これは音楽に限らず、ゲームでも映画でもエンターテイメントの基本原理だ。僕の持論ではバイクも同じ。単に速いバイクや燃費がいいといった理詰めのバイクは究極をいえば頭がよければ作れるだろう。しかし、バイクはあくまで趣味の乗り物だ。乗って楽しい、走らせているだけで幸せになれるような“ファン”なバイクは、やっぱりバイク好きにしか作れないと僕は思っている。心に響くバイクを作るのは、「どんな風にしたら楽しめるか」を損得抜きで考え続けている、あきれるほどバイク好きな人たちなような気がするのだ。
こんなにも“熱”を帯びた人たちがバイクを設計し、組み立てて、プロモーションしているのだから、製品に触れて楽しさが伝わらないワケがない…。もちろんこれはバイク雑誌作りにも当てはめられることだけど、そんなことを強く印象付けられたKTM本社見学だった。バイク王国日本。こいつはうかうかしてられないぞ!