安全技術が切り開くバイクのない世界!?

クルマの自動ブレーキに関する新たな制度ができたという新聞記事を目にした。その記事は、各社バラバラだった自動ブレーキの様式を等級分けを行なうような規格を作って、ユーザーにわかりやすくしようというような内容だった。

この自動ブレーキ。人間のミスやとっさの危険をクルマの方で判断して自動的にブレーキをかけようとういう安全技術である。最近テレビでも、壁に向かって進むクルマが「クルマと人間を見付けて自動的に停止。車内の人が「お〜! スゲー」なんていうCMをやっているから、知っている人も多いと思う。

ただ、バイク乗りの僕からするとちょっと不安な代物だ。“前にいるのがバイクや自転車だった場合はどうなんだ? 停まるのか? それともそのまま…?”と思ってしまうのだ。メーカーが側は「あくまで補助的なものであり、いかなる場合も安全を確保するものではありません」なんて逃げの一文を取扱説明書に入れておくに決まっている(笑)。それにこの手の技術のツネとして、安全技術が向上するのはいいけど、ブレーキに対して無頓着なドライバーが増えることも安易に予想できる。乗り手の集中力や技術は低下するのは確実だろう。これはオートバイに付いているABSやトラクションコントロールシステムでも、僕自身イヤというほど実感している。トラクションコントロールが付いているからと、ついついアクセルコントロールがラフになるし、スリップダウンの不安がなくなったような錯覚に陥るから旋回速度が自分の技術以上になりやすい。つまり安全技術のおかげで、自分の運転技量を越えたスピードが出せるようになってしまうのだ。最近、先進技術のこれが恐い。

閑話休題。話を自動車の話に戻そう。クルマの自動ブレーキが作動するのはいまのところ30km/h以下ぐらいに限定しているらしいけど、信号待ちで並んでいるときに、ノーブレーキで突っ込まれたらたとえ30km/hでもバイクはひとたまりもない。ウン悪く前にもクルマがいて…なんて、考えるだに恐ろしい。このあたりはいったいどうなるのだろうか? テレビCMでぜひ公開していただきたいものだ。

それと自動ブレーキとは別に、気になるのが高速道路での運用を前提とした自動運転システム。随分前から開発が行なわれている技術だけど、これは高速道路を走行する間はクルマが自動で運転を行ない、四輪ドライバーはハンドルとアクセル、ブレーキにふれる必要がないというもの。この技術に関しても、加速性能や動力性能の違うオートバイがこのシステムにどう組み込まれるのかが、どう考えてもわからない、思いつかないのである。以前、とあるメーカーの開発者と雑談する機会があったのだが、そのときには「オートバイは自動運転のシステムには現時点で組み込まれていない」とのことだった。“オートバイが接近してくる”ことをドライバーに知らせはするらしいが、クルマの制御にアクティブに介入することは現段階では行なわないらしい。そりゃそうだよね。機動力の高いバイクの動きに対していちいち敏感に反応する設定にしていたら、交通そのものが機能しないだろう。

一方、姿勢制御のコントロールをライダーのバランス感覚に頼るのがオートバイという乗り物だ。自動運転装置や自動ブレーキがすんなり導入できるとは考えにくい。できたとしても、それは車体が勝手にバランスを取って走る現在のオートバイとは似て非なる乗り物になっているはずだ。

いろいろ考えていくと、どうも今現在構想されたり開発が進んでいる最新技術のインフラが完成してしまうと、われわれオートバイ乗りの走る場所がなくなってしまうような気がしてくる。管理できないモノはシステムから排除するというのが世の中の常。「オートバイの連中はETCも付けないし、そもそも高速道路の利用率も微々たるモノ。自動運転システムにも、自動ブレーキにも組み込めないから、いっそ排除して走行禁止にしてしまえばいいんじゃない?」なんて恐ろしい話がどこか僕らの想像のつかないところで進んでいそうで恐いのである。

「オートバイが高速道路を走れなくなる」、それどころか「交通社会から排除される」なんて最悪のシナリオだけは、なんとか阻止しなければ…。まぁ、そんなことになったら僕は“CB感”的なレジスタンス行為を行なうことになるんだろうけどね(笑)。今はそんな日が来ないことを祈るばかりだ。

やたぐわぁ

written by

やたぐわぁ

本名/谷田貝 洋暁。「なるようになるさ」と万事、右から左へと受け流し、悠々自適、お気楽な人生を願うも、世の中はそう甘くない。実際は来る者は拒めず、去る者は追えずの消極的野心家。何事にも楽しみを見いだせるのがウリ(長所なのか? コレ)だが、そのわりに慌てていることが多い。自分自身が怒ることに一番嫌悪感を感じ、人生の大半を笑って過ごすことに成功している、迷える本誌編集長の44歳。

コメント 1件

  • アバター

    by yossy2014/1/26 10:27

    確かにおっしゃるとおり、安全技術が進歩するのは良いですが、それに頼って運転技術やマナーが低下する(人もいる)事が怖いですね。
    実際に試乗会の際に一般道で、自動ブレーキ作動速度を忘れ、それを超えるスピードで試して壁に激突したとのニュースを見ました…巻き添えの人がいなかった事が不幸中の幸いです。

このコラムにあなたのコメントをどうぞ

この記事が気に入ったら
いいね!とフォローしよう

タンデムスタイルの最新の情報をお届けします