KTM・1190ADVENTUREのMSCを体験!

最近の電子制御技術の進歩はスゴいとはいえ、こんな日がくるとは思わなかった。何ってモーターサイクルスタビリティコントロールである。ABSやトラクションンコントロールシステム(以下:TCS)などの制御技術は最新のオートバイには付いているので、すでに体感したという人も多いだろう。メーカーの思想の違いによって若干性質は異なるが、大雑把に言えばABSがブレーキのかけ過ぎによるロックを防ぎ、TCはアクセルの開け過ぎによる後輪の空転や意図しないウイリーを防ぐ技術だ。ただこれまで、これらの機構を正常に働かせるためにはバイクを真っ直ぐに保つ必要があった。

 

…ところがである。2014モデルのKTMの1190アドベンチャーに新採用されたモーターサイクルスタビリティコントロール(MSC)は、これらの装置にBOSCH製の傾斜&加速度センサーを連動させることで旋回中、つまりバイクが傾いているときにも、バンク角に合せて適性な介入具合でABSやTCを効かせられるようになった。このMSCは、ABSなどの車体制御ユニット分野をリードするボッシュが二輪車としては初めてKTMの1190アドベンチャーに搭載したシステムであり、モチロン世界初登場。

 

 

 

その特長をわかりやすく説明すると、ステップをギャリギャリいわせるようなコーナリングで、「あぶねぇ!」とブレーキを握って(踏んでも)ツルッとならない…らしい。

 

↓つまりこんな状況だ!

 

でもってコーナリング中にギュワっとアクセルを開けすぎてもスリップダウンしない…らしい。

 

こちらは1190ADVENTURE Rで、フロント21インチホイールのモデル。MSCは積んでいるが、電子制御サスは搭載していない

 

しかも、オートバイの旋回姿勢に合せて制御するから、ブレーキングによるモーメントの変化によって不意にバイクが起き上がって旋回半径が大きくなる(つまり、不用意にはらんで対向車線に飛び出すような)こともない…らしい。…らしい、らしいばかりで申し訳ないが、「ワザとフロントブレーキかけてスリップダウンさせてみ? 電子制御のおかげでしたくてもできないから…」と、いわれたってやりたくはない(!)し、見たこともないから憶測でしか語れない。

 

…が、先日行なわれたKTMの試乗会でその機会に恵まれて(?)しまったんだよねぇ。うーん、しまった! だが何ごとも試してみるのが編集者魂というものである。しかも、この手のテストはナニかあったらコトだからをヘタに誰かに「やってきて♥」とお願いするワケにもいかない。ぐぬぬ、試乗会までの1週間迷ったがやってやろうじゃないか。KTMジャパンの広報さんに事前に相談してみたら「うーん。僕も試したことがないから保証はできませんけど、やってみてもいいですよ〜。そのかわり(ナニか起きてもマズいので?)御社の試乗の枠はラストにしておきます!」だってさ(笑)。

これで僕の「フルバンク中にガッツリブレーキ&アクセルがばあけ体験」決行がきまった。とはいえ現場でビビった僕は、たまたまその場にいたガン寝かしで有名なジャーナリストの宮崎◯一郎氏に「理論的には大丈夫らしいので、一緒にやりましょうよ!」と、道連れしようとするも「ゴメンだっ! 一人でやれ!」ときっぱりハッキリ断わられた(笑)。さてわたくし、やたぐわぁが決死の覚悟で挑んだ結果と効き具合は、…タンデムスタイル姉妹誌の『風まかせ(5月7日号)』にてがっつりレポート! まぁ、生きてこの文章書いてますからね、推して知るべし。恐るべしMSC!

 

↓下記に追加記事アリ

わかりにくいけど、ステップ擦ったところでリヤブレーキをガン踏み中。もちろんフロントブレーキがん握りもこの後に試した。…革ツナギに着替えてね(笑)

 


 

———————————————————-

●KTM モーターサイクル用スタビリティコントロール(MSC)

 

いやはや、とんでもない時代がきたものだ。なんとこのKTMの1190アドベンチャーというバイクは、ABSやトラクションコントロールをより進化させたモーターサイクル用スタビリティコントロールシステム(以下:MSC)を世界で初めて搭載している。

 

———————————————————-

●MSCとは?
ABSやトラクションコントロールが介入する最適な度合いは、車速、遠心力のかかり具合、バンクの深さによって大きく異なる。従来のシステムでは、車両がどんな状態にあるかの検出が難しくそこまできめ細やかな設定はできなかった。しかし、慣性センサーモジュールを搭載したことにより、直線で加速しているか、減速しているのか? それともコーナリング中なのかの判断ができるようになったおかげで、各状況下における物理的限界を算出し、ABSやトラクションコントロールに積極利用できるようになったのだ。

5軸の慣性モーションセンサーとABS、それとトラクションコントロールの組み合わせで、コーナリング中の転倒が劇的に減るというのがMSCの考え方だ

 

どういうことか? 直線はもちろん、コーナリング中にブレーキを強くかけても、アクセルをワイドオープンしても、オートバイの方で状況判断を行ない転ばないように制御するというのだ。MSCを説明する前に、まずは基本となるABSとトラクションコントロールについておさらいしておこう。ABSとは端的に言えば強すぎるブレーキ操作によるブレーキロックを防ぐ装置である。オートバイにも随分と普及している技術のためすでに体感したことのある方も多いだろう。その仕組みは、前後の車輪のまわり方の違いから、前後タイヤのロックを常時に監視し、ロックを検知すればそれ以上滑らないようにブレーキのかかり方を油圧で制御する。いわゆる握りゴケと、スリップによる制動距離の延長を防いでくれる装置である。

 

一方、トラクションコントロールは、前後輪の車速センサー検知の原理はABSと同じで、前後の車輪のまわり方の違いから後輪の空転を感知して、エンジンの出力を制御し、アクセルの開け過ぎによるホイルスピンからのスリップダウンを防いでくれる。

 

———————————————————-
●ABSとトラコンに加え姿勢制御もつかさどる

では、今回MSCを搭載した1190アドベンチャーは従来の技術と何がちがうのか? このABSとトラクションコントロールがコーナリング中にも対応できるようになったのである。キモとなるのは、車体後部に埋め込まれた慣性センサーモジュール。この装置がマシンのリーン角とピッチ角を毎秒100回以上の速さで算出しており、バンク角や車速に合わせたスムーズなABS及びトラクションコントロールの介入を行なってくれるというのだ。

これだけでもたいした進歩であるが、スゴいのは、このMSCが姿勢制御まで行なってくれること。というのもオートバイはコーナリング中にブレーキをかけると、直立姿勢に戻ろうとする力が発生し、走行ラインが外側にふくらむのだ。これが危ない。考えてもみてほしい。コーナリング中にブラインドコーナーから対向車がやってきたのにビックリして思わずブレーキレバーを握ってしまったら…。右コーナーならコースアウトするだけですむかもしれないが、もしそれが左コーナーなら大惨事になりかねない。

 

1190アドベンチャーのMSCは、電子制御サスペンションに介入することで姿勢も制御。コーナリング中にブレーキをかけても車体が起きないからラインもふくらまないというのである。…でも、これはあくまで机上の理論。本当にそんなにうまくいくのか?  ということで編集部の挑戦が始まったというわけだ。場所は千葉県は袖ヶ浦サーキット。ハイスピードコーナーでガッツリブレーキを握ってやろうではないか!

 

———————————————————-
●転倒覚悟で急制動アクセルワイドオープン

とはいってもそれを意図的に行なうのはとても恐ろしいことである。フルバンク中にブレーキをかけすぎたらどうなるか? アクセルを開けすぎたらどうなるか? 一応これでもバイクに乗って20余年。川端康成じゃないが、どうにもならないあの感触は右手の指先がいやというほど覚えている…。

 

まずはパドック裏の広場でトラクションコントロールとABSの動作確認。直線はもちろん、30km/hぐらいで定常円旋回をしながら、手始めにリヤブレーキを踏み込む。ペダルが押し戻される感覚はあるものの、ロックはしない。車体も確かに起き上がらない。ただリヤブレーキ操作ではそれほど車体の挙動変化が起きるわけではないからイマイチその効果を体感できない。

 

そこで次にフロントブレーキ。最初は、フロントフォークの沈み込みを確認しながらおそるおそる握り込んでいたものの、次第にレバーの操作が「クッ!」から「グッ!」になり、最後には「ギュッ!」まで握り込むことに成功した。もはや通常のバイクなら、スリップダウンを覚悟するところだが転倒しなかった。転ばないということはMSCが動いているという証拠なのだろうが、ピッチングモーションが大きいのと、速度が低く制動時間が短いからだろうか? 正直なところ、MSC作動の実感がわかない。

 

こうなったら、やはりコースインして試すほかあるまい…。R55の左コーナーに狙いを定め、僕は覚悟を決めた。アクセルを全閉し、エンジンブレーキを使いながらじわりとフロントブレーキをかけてフロントフォークを沈ませて旋回。クリッピングポイントに達したところでブレーキをリリースし同時にアクセルを開ける。後輪にトルクが伝わりグッと車体が起き上がり始めたところで…、全閉し間髪入れずブレーキをかけてみる。コーナーの出口でのパニックブレーキを再現してみたのだ。

結果からかけば、…なにも起きなかった。介入の具合がごく自然なのである。リヤーブレーキ関しては途中からいい気になって、クリッピングポイント前からガンガン踏み込んだのだが、なにも起きないのだ。ただコーナリングスピードがスピードが落ちるだけで、変な車体の揺り戻しも、ヌルッという嫌な感触もない。ただただ減速する。

フロントブレーキの場合は少し違った。スピードでいえば60~70km/hぐらいでコーナー進入し、バンク中のスピードは50~60km/hといったところだろう。そこからフロントブレーキを握り込むと、フロントがさらに沈み込む感触に嫌な汗はかくものの、それ以上はリヤブレーキ同様なにも起きない。 グググッと制動して速度が落ちるだけである。フロントブレーキに関しては、さすがに理性が邪魔をして「やりきった!」と思えるほど容赦ないブレーキ入力はできなかったが、前評判どおりフロントフォークの沈み込みに合せて車体が起き上がるなんてこともない。

何も起きない、感じ取れないというテスターとしては非常に歯がゆい状況であるが、 ここまでやって何も起きないことが逆にこのMSCの素晴らしさを表しているのだ。テストの結果としては上々の結果が得られたのではないだろうか? MSC、こいつはすごい技術だ。

 

やたぐわぁ

written by

やたぐわぁ

本名/谷田貝 洋暁。「なるようになるさ」と万事、右から左へと受け流し、悠々自適、お気楽な人生を願うも、世の中はそう甘くない。実際は来る者は拒めず、去る者は追えずの消極的野心家。何事にも楽しみを見いだせるのがウリ(長所なのか? コレ)だが、そのわりに慌てていることが多い。自分自身が怒ることに一番嫌悪感を感じ、人生の大半を笑って過ごすことに成功している、迷える本誌編集長の44歳。

このコラムにあなたのコメントをどうぞ

この記事が気に入ったら
いいね!とフォローしよう

タンデムスタイルの最新の情報をお届けします