ホンダのさんが毎年行っている二輪各誌の編集長を集めたミーティングが今年も行なわれた。このイベントは通称「編集長ツーリング」なんて呼ばれており、今年は30人近い二輪雑誌の編集長が参加(そんなにバイク雑誌があるんかい!)、またホンダさんの社員も合わせると50人以上になる。その大所帯がまるで参覲交代のように千鳥の隊列を組んで走るという、かなりビックリのツーリングである。すごいのは車両やライディングジャケット、レインウエアはホンダさんがすべて手配。朝、羽田空港に集まると、どこかに運ばれて「ジャケットを着たら、好きなバイクを選んでください」なんて感じで始まる、1泊2日の大名旅行である。
壮観なのは、全員ホンダのバイクにまたがり、そろいのホンダ製ライディングジャケットに身を包んで千鳥走行すること。その長さは状況によっては200m以上にもなる。僕自身、自分勝手な性格なので並んで走るマスツーリングはそれほど好きではないのだが、コレばっかりは話が別だ。見送っても見送ってもやってくるホンダのバイクに、道ばたで地元の方々が狐の嫁入りか、百鬼夜行に出くわしてしまったような表情になるのがおもしろい。今年は、北海道という土地がら、延々とピースサインを出し続けられて困惑するライダーに遭遇したりした(笑)。ということで、梅雨のこの時期に、恐ろしい数のホンダ軍団を見かけたら、十中八九それはそういうことだ。
さて、長くなったが本題に入ろう。今年はそんな編集長ツーリングが25回目とのことで場所は北海道。さらに、旭川にあるホンダさんのテストコースを使っての大試乗会も催された。ATV からバカ高いバイクまでいろいろ乗ったが(さすがにホンダジェットはなかった)、ここで書きたいのは南米やアフリカで販売されている小排気量のバイクたちのことだ。
試乗会場に着くと不思議な形のスーパカブやフルカウルのマシン、300㏄のデュアルパーパスなど、見慣れないバイクたちが並んでいる。日本で発売されていないモデルなので、この機を逃すなと片っ端から乗り倒す。お馴染みのビッグバイクもたくさんあったけど、僕は一応アンダー400という400㏄以下専門のバイク雑誌の編集長だし、個人的にも普段乗れないバイクの方がやっぱり気になるってもんだ。
ただそんな物珍しいバイクたちに混じって、5、6台のビジバイ風の小さなバイクが並んでいた。排気量は125~150㏄のギヤ付きコミューターで、南米やアフリカ、インドの人たちの生活を支えるバイクたちだ。正直、かたちも似たり寄ったり、どう違うのかも見た目からはさっぱりな感じ。乗る前は「どれも一緒だろ?」などと思ってたのだけど、あまりにもとりつくしまがなかったので、会場にいたコミューター部門担当のテストライダーさんに、「いろいろ並んでますけど何が違うんですか?」とぶっちゃける。こういうときは背伸びしないで聞いてしまうにかぎるのだ。
説明によれば、仕向け地と価格が違うらしく、その土地の道路状況に合わせたセッティングやパーツチョイスがなされているという。確かに言われてみればタイヤやブレーキ、そしてサスペンションのセッティングが微妙に違うようだ。テストライダーさんオススメの乗りかた「価格順」に片っ端から乗ってみる。すると不思議なもので僕にも違いがわかるのである。車体もエンジンも似ているようでぜんぜん違う。一番安いというアフリカ向けの日本円にして5万円のモデルは、「まぁ、こんなもんか?」というビジネスバイクらしいチープな乗り味だったのだが、徐々に価格を上げていくとフレーム剛性やエンジンのキャラクターが少しずつ変わっていき、ある価格帯のマシンからスポーツバイクといえる領域へと変化する。
わかりやすく言うと「まぁ、このバイクにムリをさせんでも…」と、スポーツ走行への欲求がかけらも起きなかったビジネスライクな乗り味が、少しグレードが上がったモデルに乗ると「コイツは走れるんじゃないの? ちっとリーンインでケツを落としてヒザ出してみっか?」と乗り手が思わずスポーツティな気分になる…、いや、テストライダーさんたちの巧妙な造り込みでそういう気分に“させられて”しまうのである。そうだよね、みんな同じだったら値段の違いなんて付けられないもんなぁ。
うーん。目からウロコ。それにしても驚いたのはそんなバイクたちの味付けを、微妙なさじ加減で行なっているテストライダーさんたちの職人芸である。バイクに乗っているとその乗り味に作り手の意図を明覚に感じるときがあるが、それもこれもそんなテストライダーさんたちの職人芸が成せる技だったというわけだ。いったいどんな訓練を受けたら、仕向地に向けた乗り味のテイスティングや手直しが行なえるセンサーが身に付くのか? できることなら誌面の試乗記事に活かすべくご教授いただきたいものだ。どこかにテストライダー養成施設とかないもんかなぁ。