四国に住んでいたころ、香川県のとある動物園に遊びに行ったことがあるのだけど、今思えばそこはなんだか変なところだった。というのも普通、動物園といえば“檻の中の動物たちと触れ合う”というのがセオリーであるハズなのに、その動物園はことごとくそのスタイルを無視していたからだ。
まず動物園に到着してクルマを停めると、明らかに野鳥じゃない鳥が駐車場をうろついていた。たぶんクジャクのメスだった気がする。近付いてもあまり警戒しないから、けっこう間近で観察できたんだけど、人間サイズの大型鳥にここまで接近できるなど、そうそうできる経験ではない。入場ゲートを通過する前から動物と触れ合えてしまうこの動物園に、当時は面食らったものだ。
ただそのクジャクとの出会いは前座でしかなく、入場してからが本番だった。料金を支払って場内に入ると『アライグマ』と書かれた手作り犬小屋の横に、鎖でつながれたアライグマがいた。申し訳程度に食べ物を洗うための水も設置されいる。飼育方法は完全にイヌなのだけど“これはアライグマです。触れ合ってください”と言いたいようだ。
基本的にイヌに近い体格の動物たちはこのスタイルで飼育されており、さらに『ワンワンランド』(みたいな名前)と名付けられた一角では、尋常じゃない数の雑種犬を飼育していた。“ここでワンちゃんと触れ合いましょう”ということらしいが、もともと野良犬や捨て犬であったであろうワンちゃんたちは気性が荒く、こちらに牙をむくため近寄ることさえできず、とても触れ合える環境ではなかった。
極め付けはここの動物園の目玉であるホワイトタイガーなのだが、ちょうどそのころは赤ちゃんタイガーが生まれた時期だったらしく、小さな赤ちゃんタイガーを抱っこできるとあってボクはドキドキしていた。ところが飼育員が連れてきたそれは中~大型犬ほどのサイズのホワイトタイガーで、お世辞にも“赤ちゃん”とは呼べないレベルまで成長した姿だった。眼も、TVで見た子猫のようなものではなく、どちらかといえばもう狩りを覚えてもいいくらいの鋭い光を帯びていた。「あのこれ、大丈夫ですよね?」と聞くと「大丈夫! 噛まれても痛くないよ」とオジサンの飼育員が言う。たしかにおとなしい性格だったため噛む力も甘噛み程度で大事にはいたらなかったが、明らかに本来の力をセーブした噛み方だった。腕をモグモグ噛まれながら、もしこのホワイトタイガーに本気を出されたら…、と想像すると本当にドキドキしたものだ。
もう何年も前の話なので、その動物園が今どんなスタイルなのかはわからないけれど、個人的にはこうした変な施設は大好きだ。ただ、この動物園のようなパンチのあるおもしろいスポットはだんだんと少なくなっている気がする。今は何かと「危険だ」「改善しろ」とクレームが発生するから自然淘汰されてしまっているのだろう。残念な話だ。
雑誌作りも似たようなもので、この動物園のような自由なスタイルの方がおもしろい企画になったりする。もちろんTPOはわきまえなければならないのだけれど、やはりいいものを作るにはある程度の自由さは必要だし、変なことにも積極的にチャレンジすべきだろう。タンスタの企画を考えながら、ふとこの動物園に行ったときのことを思い出した。さて、次号はどんなことをやろうかな?