プライベートで台湾へ行ってきた。目指したのは縦に長い台湾中部の東岸にある花蓮という町。その町でバイクかスクーターを借りて、断崖絶壁の太魯閣(タロコ)峡谷を走り、道路としては台湾最高所の武嶺(ウーリン)まで行ってみることにしたのだ。見上げるような太魯閣峡谷に、日本の道では考えられないような急坂が続く武嶺への道などなど、ネタはいろいろあるが、ここで書きたいのは、台湾の人たちから受けた恩のことだ。
レンタルしたバイクは、ヤマハの125㏄スクーター・シグナスX。花蓮の駅前に乱立するレンタルバイクショップで、3日間ほど借りる算段をして走り出した。太魯閣峡谷も無事通過し、台湾最高所の武嶺にもなんとか到着して目的をはたした。…まではよかった。ところがであるなんと2日目の夜。花蓮へと戻ろうとしたところ、あと残すところ50kmというところで道路が封鎖されているっ! 道端で列を作っていたトラックの運ちゃんに片言の英語で状況を聞いたところ、途中の道路が崖くずれで通行止め。ゲートが開くのを待っているらしい…。
え? マジっすか? 目が点である。…いや実はなんとなく、1時間ほど前から嫌な予感はしていた。というのも、道路の電光掲示板に「9号線、148公里(km)、崩落、通行止」という文字を何度か見かけて気になってはいたんだよねぇ…。ただ9号線の148kmポイントと言われても土地鑑のない外国人の僕には何のことやら…。今走っている9号線のどこかが通行止めになっていることだけは理解できたものの、とりあえず走るしかなかったのだ。だけどね…、な〜んか進むにつれて国道なのに異様に往来が少なくなるし、よくよく見れば道路には日本の高速道路でみかけるようなキロポストもあって、数字は確実に148へと近づいていたのだ…。
さぁ、困った。というのも宿に荷物を預けているし、レンタルバイク屋にはパスポートをデボジットしたまま。それよりナニヨリ明日は午後の飛行機で帰国する予定であるのだっ! 朝イチとはいわないまでも10時過ぎの電車で台北へ向わないと羽田行きの飛行機に間にあわない。いやぁ、久々にアドレナリンが出たねぇ。このアドレナリンの噴出量は一昨年、ヤマハのMT-09トレーサーでアイスバーンの上に乗ったとき以来だ(なんのこっちゃ)。
とはいえ、まっ暗な山道でうずくまっていても始まらない。気を取り直して近くの町まで戻り、筆談で聞き込みをする。…が、やはり情報は似たり寄ったり。わかったことは「土砂崩れは夕方に起きたばかりで復旧作業は手つかず」であり「確実に明日の12時までは道路が開通しないだろう」ということだ。また、この場所は日本でいえば親不知子不知海岸のような場所で「裏道もまき道もいっさいナシ」。迂回するにしても最短ルートは今日まさに走ってきた山越えの道となるが、こちらはこちらでなんと夜間の通行制限がある。明日の朝まではどのみち走れず、そちらも時間切れというワケだ。一瞬、本気で台湾をぐるっと反時計まわりにまわることも考えたが、トラックの運ちゃんに「インポッシブルッ!」と僕でもわかる英語で完全否定されてしまった。まぁ、安直にな表現だが、どうやらたった道路一本の崩落で八方ふさがりの状況に追い込まれたのである。
さて、どうしたものか…。なんにせよ迷惑をかけるこの状況を宿とバイクショップに説明しなくてはならないが、漢字は読めても中国語などからっきしの僕は筆談で一語一語の疎通はできても、電話などできるワケがない。確かな情報を得るのと、なんとか宿とバイクショップに事情を説明してもらえないかと最寄りの警察署へ足を運んだのだが、なんとこれで一瞬にして事態は好転してしまったのである。
日本人であり、レンタルバイク旅行中であり、明日帰国予定であること、花蓮へ行く道が他にないのか? …などと伝えると、ひとまずレンタルバイク屋の電話番号を教えろと言う。そしてものの数十秒の電話で、警察官から
「話はついたから、バイクはここに置いて電車で帰れ!」と言われる。しかも、今なら次の電車にまだ間にあうからパトカーで駅まで送ってやる。早く荷物をまとめろというのである。もう、それからはトントン拍子。おかげで2時間後には宿に戻って熱いシャワーを浴びて、あたたかい布団で泥のように寝ることができた。次の日も、どれだけ怒られるかとビクビクしながらバイクショップに顔を出してみれば、1日分の延長料金とバイクを取りに行くための電車代だけ払ってくれればまったく問題無い。迷惑料にオツリを受け取ってくれと言ったがそれも受け取らないのである。そればかりか今回のことで信用ができたから、また花蓮へ来たらウチでバイクを借りてくれと言ってくれる。
うーん。困っている見ず知らずの外国人に対して僕はここまで献身的に動けるだろうか? バイクを貸した外国人が隣町の警察にバイクを乗り捨ててきても、またソイツにバイクを貸そうと思えるだろうか? うーん。いつかどこかで誰かに返さなければいけない恩が、また一つ増えてしまった。