ボクの友人にオフロードバイクしか眼中にない人物がいる。
彼は10年ほど前にバイクに興味を持ち「まずは50ccから」とマシンを選び始めたのだが、多くのライダーがまず選択肢に入れるであろうカブ・モンキーなどの4ミニやスクーターといったいわゆる“定番”には目もくれず、いきなり2ストロークエンジンのオフロードバイクを購入した。
そのバイクは前オーナーの手によってスカチューン仕様になっていたせいもあってか低速トルクが貧弱で、おそろしく乗りにくかったのを覚えている。しかし友人は「これおもしれーわ」とますますオフにハマり、次々とオフロードギアを買いそろえ、『ガ○ル』『○ートスポーツ』といったオフロード専門雑誌を読み始めた。現在はステップアップして4ストローク250㏄マシンに乗っているが、そのスタイルはまったくブレておらず、もう舗装道路のない国に住めよって思うくらい。
しかし前日、愛車が故障したらしく、修理の間ショップから代車を借りることになったのだが元気がない。聞けば代車がクルーザーモデルだったことが不満とのこと。ショップが厚意で貸してくれた代車に文句を言うのは筋違いだと彼もわかっていたが、クルーザーモデルはどうしても好きになれないため葛藤していたのだ。「たかが代車でそこまで深刻にならなくても…」とボクは思ったが、オフロードに純潔をささげてきた彼にとってそれは大問題なのだろう。しかし数日後、彼からまた連絡があった。
「これおもしれーわ」
予想外の言葉にボクは面食らった。結論から言えば、クルーザーに対する拒否反応は単なる食わず嫌いだったらしい。「オフロードにはない直進安定性が」とか「Vツインエンジンがなかなか」などとクルーザーの魅力を喜々としながら語る姿は、数日前の彼と同一人物だとは思えなかった。ここまでちょろいと不安になるが、彼は妙にガンコなところがあってほかのことに目を向けようとしない性格であるため、これはこれでいいキッカケなのではとも思っている。ある日キメキメの革の上下でバイクに乗って登場しようとも、本棚にクルーザー専門誌が並ぶようになろうとも、それは彼にとってイイことだと思う。ただ、彼はボクがオフロードにハマるキッカケを作ってくれた人物。なんだかんだと言ってはいるが最後はオフロードに戻ってきてほしいものだ。