先日、生まれて初めてスリックタイヤというヤツを履いた。場所はホンダさん主催のCBR1000RR SPのサーキット試乗会。なんと新型のCBR1000RR SPにスリックタイヤを履かせて、それでサーキット走行をさせてくれるというのだ。僕自身、10数年このオートバイ雑誌作りをやっているけど、サーキット走行は恥ずかしながら両手の指で数えるほどしかやったことがない(笑)。とはいえ乗れる乗りこなせないはともかく、新型のCBR1000RR SPのサーキット走行とスリックタイヤには興味津々! ホンダさんからのお誘いに「ぜひぜひ!」なんて、軽い気持ちで参加を申し込んだのだが、会場に着いて震えあがってしまった(笑)。
だってね? まず会場である袖ヶ浦フォレストレーシングウエイにいるスタッフさんの数がスゴい。試乗するCBR1000RRに1人前後1本ずつの新品スリックタイヤが用意されるため、CBRの車体からホイールセットを外すメカニックが2人ずつ。そしてホイールにタイヤをセットするブリヂストンさんのスタッフが3人。そして車体のセッティングを行なったり、コメント取りを行なう開発陣が8人。そんな人たちが、せっせと動き回っている。少なくとも「スリックタイヤ初めてで~す! 今日はよろしくお願いしま~す!」なんてノリのライダーが気軽に来ていい場所じゃなかった(笑)。この雰囲気、レーサーの世界、しかもなんだかトップレンジのライダーみたいじゃないか!
CBR1000RR SPのサーキット試乗記事は、6月24日発売のタンデムスタイル183号でしっかり書かせてもらったのでそちらを見ていただくとして、ここでは、このブリヂストンさんのレーシングバトラックスⅤ02というスリックタイヤのことを中心に書きたい。
参考までに書いておくと、スリックタイヤとは一般的な公道用のタイヤとは違い、完全にサーキット専用作られたタイヤで、もちろん公道走行不可。それもドライコンディションのみにしぼった開発がなされており、タイヤで表面に排水のための溝(トレッド)がなく、ゴムそのものがとても軟らかい。それだけにキチンと使えば超絶的なグリップ力を発揮する一方で、冷えていると落としただけでパックリ割れてしまうことがあるくらい温度管理にシビア。走行中も60度ぐらいの温度にキープする必要がある。つまりはキチンと乗れないとマトモに使えない、上級者向けのタイヤってことだ。
…なんてことを現場にいたブリヂストンのスタッフから教えてもらう。
いやはや、とんでもないところに来てしまった(笑)。ピットを見ればすでにスリックタイヤに履き換えられたCBR1000RR SPが鎮座ましましている。おまけにタイヤウォーマーまで巻いており、1時間かけて80度まで温めているそうだ。
やらねばなるまい。能書きはこのくらいにしてとにかく走り出す。ホンダの広報さんに「くれぐれも無理はしないでくださいね~」なんて、言葉に見送られての出発。しかも、最初の一周を先導してくれるのは8耐ライダーの伊藤真一選手である! どうか無事にピットまで戻れますように。…などと思ったのは1コーナーを曲がるまで(笑)。というのもコーナリングした瞬間、タイヤから今まで感じたことがないくらいの、ものすごい接地感が伝わってきたからである。普通のバイクのタイヤは「路面に乗っかって踏ん張っている」のだとしたら、スリックタイヤのそれは「路面にペタッと自らが張り付いている」イメージ。路面をつかむなんて表現があるけど、もうそんな感じなのだ。
でもね、すごいグリップに感心するとともに、ブリヂストンのスタッフさんの言葉を思い出しちゃったんだよね。「走行中もきちんと負荷をかけてあげないと、どんどん温度が下がってしまってきちんとタイヤが仕事をしなくなるんです」。…つまり、たらたらツーリングペースで走っていると、タイヤが冷えて余計に危ないですと?
がんばって(だから無理するなって言われただろっ!)アクセルを開けていく! だってタイヤが冷えて滑り出したらそれはそれで恐ろしいからね…。すごいのは少々ペースを上げてもまったくコケる気がしないんだよねぇ(笑)。タイヤが積極的に路面をつかんでくれるおかげで、直線はもちろん、コーナリングもビシッと安定。しっかり荷重をかければかけるほどマシンが安定していくカンジ! ここまでくると、もう逆に楽しくなっちゃって(笑)、いつもよりガンガンアクセルを開けている自分に気づく。それにコーナリングでも今日はなんだかミョ~にイン側の路面が近い…、というか周回を重ねてペースアップするごとにどんどんバイクが寝ていく。MotoGPではヒジ擦りなんてぐらい常人には考えられないバンク角で曲がるらしいけど、いやぁなんだかそんな世界が少しだけ見えてきた気がする。スリックタイヤ、いやブリヂストンのレーシングバトラックスV02恐るべしである。