故郷より

 5月の後半ごろ、茶封筒に入ったお便りが編集部に届いて来ました。読者様からのお便りは僕が管理しているので、とりあえず僕が開封することに。裏面を見ると福島県の住所が。”お、ふるさとからだな”と早速カッターの刃を出した。

 中にはいくつかの観光資料と、タイピングだろうか、直筆だろうか…。美事な筆字の文章が、A4サイズで2枚入っていました。


 内容をものすごくかいつまんで書くと、
”震災から6年経った今、改めて振り返ってみると春(3月~5月ごろ)の記憶は”不安”と”恐怖”があるのみで、季節の移ろいを感じる暇などありませんでした。中学時代に習った『平家物語』や『方丈記』にある”世の中の無常”。つまりいつ何が起こるか解らない、という”無常”を肌で感じた次第です。
 政治家の心無い発言にも”無情”を強く感じていますが、一方で原発の廃炉問題を含め、私たちの2世代、3世代、それ以降の世代まで”負の遺産”を残していかなければならなくなったことに、申し訳ないやら、自分に腹立たしいやら、思い切り笑えない自分がおります”
といったもの。
 もうあの震災から6年も経つんだなぁと思うと感慨深いですね。長い行列を作って水やガソリンを手に入れたあの頃から6年か。駅前から人がいなくなった日から6年か。外国のキャスターが、原発の映像を見て絶句した日から6年か…てな感じで。こんな日が来るとは誰もが予想していなかった、まさに無常ですね。
 かつての景色を拝むことは、今後の人生ではもうないのでしょう。願わくば、後世の人らは良い意味で今の惨状を見なくて済む世の中になっていてほしいものです。

 

 それに続く形で、本宮市の蛇ノ鼻園で伸び伸びと咲く藤や牡丹などの写真がプリントアウトされていました。

”連休も終わり、ここ福島では田植えの季節となりました。水田に映る吾妻山連邦の山々と初夏を象徴する青い空。そして力強く若々しい新緑と爽やかな風…。一方、遅咲きの櫻やツツジに富士、牡丹、アヤメ、芝桜、菜の花といった花々が一気に花開き、頗る心地よい香りと共に私たちの心を癒やしてくれています”
 文を読んでいると、福島の情景が容易に思い浮かべられました。

 思えば、福島にいた頃は母が旅行好きだったこともあって、県内外の様々な場所に連れて行ってもらった。しかし、どこに行っても”福島より違う県の方がいい””よそのほうが優れている”と密かに感じていた。隣の芝は青かった。長い時間同じ場所に生きると、よいものも霞んでしまうのだろう。

 “俺はこんな狭い世界には居たくない”と故郷を出てから1年。都会で福島だけでなく、東北地方の観光チラシ、電車の中でのCMを見ると、あんなにつまらなかった故郷がどうしようもなく恋しくなることがままある。茨城に取材に行ったときは、”この国道をずっと行けば…”と思ってしまったことも。
 お便りをくれた方は、他にも地域振興イベントのリアル宝探し『コードF-7』と一緒に、野生の猿が息づくレークラインの話、ヒメサユリの群生が見られる西会津の話、映画『超高速参勤交代リターンズ』のロケ地である湯長谷藩、今年で誕生50周年を迎えるリカちゃん人形の聖地、小野町・リカちゃんキャッスル、松尾芭蕉の足跡をたどる福島縦断の話なども書いてくれていました。
 読んでいると、自分はまだ故郷のこと、まだ全然知らなんだなぁという未熟さを味わうと同時に、まだまだ知らないことがあったんだ、と嬉しさも覚えた。

 

 故郷は近くにありて遠く感じるもの。逆もまた然り。散々味わい尽くして飽きたあの風も、今ならまた新鮮に感じられるのだろうか。”健康と安全に留意して、楽しい記事を提供してくださいね”という一文を目に映し、密かに心の汗を流した次第。

 

 バイクの免許を持っている人には、故郷を離れて暮らす大学生や社会人も多いことでしょう。そんな方達、一度ふるさとにバイクで帰ってみてはどうでしょう。月日が流れると、意外と変わっている景色が多いことも。それがまた楽しかったり、切なかったり。
 そんな不思議な気持ちを味わえるのは、世界でたった一つ、故郷という場所しかないんですから。

キムロウ

written by

キムロウ

バイク歴3年。愛車はトライアンフ・ロケットⅢ ロードスター。 トラスフレームを見たらとりあえず「バンディット!」とか言っとく、バイクの技術・知識ともにテキトーなテキトー人間。“修行”と聞くと不思議とやる気が出てくるジャンルに属しており、現在編集部にてバイク修行中。暇があると隣駅まで散歩したり、道着を着てバイクに乗ったりして、ほっとくとテキトーな場所で寝たりテキトーに刀を振り回し始める23歳。ネクタイと、JUJUと中島みゆき、あと“黒”が好き。べつに心は黒くない。

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