JAPANESE CHOPPER RACINGが日本で初めてバガーでレースに出場

2021年に芸能界の一線から退いて、CHALLENGER RACINGというチーム名で仲間たちとバイクレースも楽しんでいるという話が伝わってきていた長瀬智也さん。そんな彼が自身のインスタグラムに挙げたメディアへの挑戦状とも取れる一文がキッカケとなり、サーキットの広報スタッフが「こんなこと初めてです!」と驚くほどの取材陣が、6月9日、レース会場となった富士スピードウェイに押しかけた。
長瀬さんはバイク仲間であるJOYRIDE SPEED SHOPの西田 裕さん、ROUGH MOTORCYCLE GARAGEの伊藤 毅さんと3人でJAPANESE CHOPPER RACINGとして活動していて、彼らが出場しているのは1日に30以上のクラスが競うMCFAJのクラブマンロードレース。同じレースに出ている知人からは、古いハーレーダビッドソンを走らせていると聞かされていた。ところが、会場の長瀬さんたちが陣取った一角に置かれていた車両は最新のバガーだったのだ。ライダーの中でも、クルーザータイプの車両に興味がない人にはバガーが何なのかわからないだろう。まずはそこから…、と思ったけれど、その前に長瀬さんがバイクにどんな魅力を感じているのかについて触れておきたい。

人生は1回なんで楽しまないと…

「しゃべっちゃうと伝わらないんですよね、いくらでも言葉は出てくるんですけれど。僕らで決めたんですよ。言っても伝わらないんだったら楽しんでみなよって。それを不親切って思う方もいるかもしれないですけど。だったら乗ってみなよっていう言葉で終わらせようかなって。
僕みたいな人間でも乗れるわけですから、たいがいの人間はできる。ただ、やらないだけです。家庭だったりお金だったりいろんな事情があるかもしれないですけど。とはいっても人生は1回なんで。少なくとも僕らはその1回の人生を楽しんでると思ってます。今は、そういうことを少しでも伝えられたらいいという思いです」


これ、バイクに乗ったことがある人なら、共感できる話ではなかろうか。ただバイクに乗って走っているだけなのに、さまざまな感情の昂りが次々に浮かんでは消えてゆく。その感動ってなかなか言葉だけでは伝えきれないものだと思うのだ。

 

バッグが標準装備された大型クルーザーがバガー

話をバガーに戻そう。バガーは読んで字のごとくリヤまわりにバッグ(ケース)が標準装備されたクルーザータイプのグランドツアラーを指す。そんなツアラー然としたバイクを使った“KING OF THE BAGGERS(キング・オブ・ザ・バガーズ)”というレースが2020年にアメリカでスタートし、年々レース数を増やし盛り上がりを見せているのだ。長瀬さんが今回のレースで走らせたハーレーダビッドソン・ロードグライド STも上の写真を見てもらえばわかるように、ノーマルはツアラー然としたスタイルで、普通これで速さを求めてサーキットを走ろうとは思はない。

 

そもそもレースに向いていないツーリングを楽しむハーレーダビッドソンでレースに出るようになったのはなぜなんだろう?
「ハーレーでレースをやるなんて笑われちゃうぐらいの話かもしれないです。でも僕らはそこにおもしろみを感じています。速いバイクで速いのは当たり前ですからね。それを思考錯誤していろんなものを乗り越えて、いいタイムを出して。で、一生懸命走ったら優勝できたり勝ったりとか。無事に帰ってこれたりとか。純粋にそれだけなんですけど。ただ、僕らはハーレーじゃなかったらレースやらなかったし、むしろその不利が、その逆境が気持ちいいぐらいです」
ちょうど2年前、誰かとバイクをカスタムするという雑誌のプロジェクトで、何をやったらおもしろいかな?と考えた時にバガ―レーサーを思いついたんだそう。


「この企画を“おもしろい!”という感覚を持ってる人は誰だろうと考えた時、すぐに西田さんと伊藤さんの顔が頭に浮かびました。西田さんと話してみると、彼もレースで新しいことをやりたいとちょうど思っていて、その構想の中にバガーもあったんです。そこからバガーレーサーを走らせるプロジェクトが動き出し、今回日の目を見ました。もちろん課題はいっぱいある。まあでも僕らはそれらをどう乗り越えるかも楽しみで仕方がないんで。こういうバイクでもレースができるんだっていうことが、少しでも多くの人に響き渡ればいいなと」
バイクには乗っているけれど、「レースはちょっと違うから…」とサーキットに足を運んだことのないライダーは多い。ただ、レースといってもさまざまで、車両メーカーが巨額をかけて作ったレース専用マシンで競うMotoGPから、長瀬さんが参加しているような普通の人が街中を走るバイクをレーサーに仕立てて楽しむ草レースまであるのだ。この記事を読んで、意外とおもしろいかもと思ったなら、まずはリアルに見るのが一番だと思う。
次回のMCFAJクラブマンロードレースは、関東圏からアクセスのいい筑波サーキットにて気候もちょうどよくなる11月10(日)の開催なので、足を運んでみたらどうだろう。

 

最後に今回、自身が走らせたハーレーダビッドソン・FLTRX ロードグライド ST、西田さんが駆ったFLTRX ロードグライド、伊藤さんが走らせたインディアンモーターサイクルのチャレンジャーRRの3台すべてに乗った感想を長瀬さんに、チャレンジャーRRの感想を伊藤さんに、ロードグライド STをレース仕様にする苦労を西田さんに聞いたので、ぜひともアメリカで盛り上がり出したバガーレーサーがどんな車両なのかの参考にしてもらいたい。
まず長瀬さんから。最初に乗ったのが排気量がノーマルの114キュービックインチで車体にもほぼ手が入っていないロードグライド。その後に128キュービックインチまでボアアップするなど、車体にもかなり手が入ったロードグライド STに、最後にチャレンジャーRRに乗っている。
「街乗りしてるころからハーレー特有のスイングアームがエンジンにつながっているラバーマウント部分の剛性不足をなんとなく感じていたんですが、今回のバガーレーサーでも本気で走るとその挙動が如実に出てくるなと感じました。
チャレンジャーRRはいわゆるファクトリーレーサーで、排気量だったりいろいろな部分が乗ってみると理解ができたというか…。剛性があって、カッチリした感じがハッキリとわかる。ほぼノーマル、それなりに手が入ったハーレーと乗り比べたことで、レーサーとして作り込んだ結果、ここに行き着いたんだというのがよくわかりました。タイムも乗り慣れていないチャレンジャーRRのほうがよかったです。ただ、いずれも楽しめる車両だと思います。
乗り続けてきているハーレーということもあり、今はハーレーをもっと速く走れるようにしようというのが僕らの選択になるかな? 今回初めてバガーレーサーでレースを走ったんだけれど、速く走らせるのが難しいからおもしろい」
今回が2回目の乗車だったという伊藤さんのチャレンジャーRRの感想は次の通りで、十分に楽しめたようだ。
「普段はショベルっていう古いハーレーを改造しまくってレース仕様にした車両を走らせているんですが、チャレンジャーは最初からカッチリできているので、メーカーが作ったすごさを感じました。レースを始めてから5年で、経験値が足りないと思っている中、いきなりすごいのに乗っちゃったという感じです。とても楽しく乗ることができました」

3台中もっとも手が入ったロードグライド STは、西田さんの手によるものだ。先に触れたようにエンジンはボアアップしてあり、足まわりはレースからストリートまで幅広いシーンで定評のあるオーリンズのフロントフォークにケンズファクトリーのアルミビレットスイングアーム、ホイールはこれまた定評のあるBSTが手がけた軽いカーボン製というようにかなり手が入っている。何よりサーキット速く走るにはノーマルはバンク角がなさすぎて、最低地上高を高くし、ステップ位置を高めてバンク角を稼いでいるのだが、初のことだし専用パーツもないので試行錯誤の連続でかなり苦労したと西田さんはコメントしている。

 

ハーレーダビッドソン・FLTRX ロードグライド

オリジナルペイントがほどこされてハデさはあるけれど、ほぼノーマルのグランドツアラーだ。なので車体を傾けれる角度も浅く、西田さんはかなり苦労して走らせていた。

 

ハーレーダビッドソン・FLTRX ロードグライド ST

上のロードグライドと比べてかなり最低地上高が高くなっていることがわかる。そしてマフラーには日本が世界に誇るパーツメーカーであり、レーシングコンストラクターのヨシムラ製が装着されていた。ちなみに同社のマフラーラインナップにハーレー用はない。

 

インディアンモータサイクル・チャレンジャーRR

2022年のキング・オブ・ザ・バガーズシリーズチャンピオン獲得を記念して世界で29台のみ販売された公道を走れないクローズドコース専用のモデルだ。レースで勝利したモデルとほぼ同じ状態になっている、本気のレプリカモデルである。

 

今回はレギュレーションから外れてしまうため、MAX10というクラスから出走したけれど、これまではA.V.C.C.(American Vintage Competition Clubman Roadrace)というアメリカ製のモーターサイクルによるロードレースの主催団体の元で、古いハーレーダビッドソンに乗ってレースを続けきた。その面々もレース仲間なのだ。

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