2017年モデルのPCXがEUホンダより発表された。 カラーバリエーションに変更を受けてマットブラックが新たに追加されてはいるものの、従来モデルからの変更点はEURO4への対応のみ。“EURO4に対応しただけ”といえば、それだけの話に過ぎないのだが、実はこれはけっこう大きなトピックス。 近ごろ、ネット上では生産終了モデルの話題がよく上がっていたりするが、これにはEURO4の問題が少なからず絡んでいるのだ。そこで、記事下部ではEURO4について解説をしてみたいと思う。
COLOR VARIATION
EURO4って何なの?
近ごろのモデル、とりわけ欧州車では“EURO4対応”というワードがよく出てくる。欧州で決められた新しい二輪車排ガス規制のことでしょ? という理解をしている人は多いと思うけれども、じゃあ具体的にどういった内容なのかという点はなかなか難しいところ。 そもそも、EURO4というからには当然、EURO2やEURO3というモノも存在していて、2006年~2015年まではEURO3という排ガス規制が欧州では適用されていた。実際のところ、今回のEURO4と比較すると、かなり緩い内容であったといえ、EURO3では規制が存在していなかったが、EURO4から新たに規制が始まるといったモノも存在する。 そこで、EURO4対応モデルが各社から発表されたこのタイミングであらためて、EURO4とは何なのかを振り返ってみたい。
EURO4の概要
2016年1月以降に欧州で販売を開始した新型車に適用される二輪車排ガス規制のEURO4。継続生産車には2017年1月からEURO4が適用され、2016年いっぱいはEURO3が適用される。このEURO4から新たに、二輪車の排出ガスに関するさまざまな規制が明確に定義されることとなる。 具体的な規制内容とそれぞれの詳細は以下の通り
試験モードのWMTCへの統一&テールパイプエミッションの規制値強化
“WMTCモード値”という燃費を示す言葉で使われているWMTCとは排出ガス走行試験モードのことでEURO4では、排ガスの検査時にWMTCモードで測定することが定められた。また、テールパイプエミッションとは排気管から大気に放出される有害物質(エミッション)のことで、EURO3に比べてEURO4ではコールドスタート時の一酸化炭素や窒素酸化物の排出量が半分以下に規制されている。
アイドル時&ハイアイドル時のテールパイプエミッションの新規導入
従来のEURO3では、型式認定時にアイドル時&ハイアイドル時の一酸化炭素の排出量などを届出する必要があったのみで、具体的な規制は存在しなかった。しかし、EURO4からはアイドル時&ハイアイドル時の一酸化炭素の排出量に制限が設けられるようになったのだ。
クランクケースガスのゼロエミッション化
クランクケースガスとはクランクケース内に溜まる未燃焼or燃焼ガス(いわゆるブローバイガス)のことで、それのゼロエミッション化とはつまりクランクケースガスの有害物質(エミッション)を大気に放出してはいけないということだ。
燃料蒸発ガス規制の新規導入
燃料蒸発ガスとはタンク内の温度変化によって気化したり、エンジン停止後も吸気管内に付着したまま気化したガソリン成分(主に炭化水素)のことで、EURO3では規制が存在しなかったがEURO4では新たに規制が設けられた。
耐久走行試験の新規導入
EURO4から新たに導入された耐久走行試験では、車両を最高速度に応じて2段階に区分し、それぞれの区分に応じた耐久距離に達するかどうかが試験される。耐久距離は、最高速度130km/h以下の車両で2万km、最高速度130km/h以上の車両で3万5,000kmに設定されている。
車載式故障診断装置の新規導入
こちらもEURO4から新たに導入された規制で、排出ガス低減装置の故障(主に断線検知)などを検知するための故障診断装置の装備が義務付けられている。
EURO4の次にはEURO5が控えている!
EURO5は2020年1月から施行予定の二輪車排ガス規制で、2020年は継続生産車にはEURO4が、新型車にはEURO5が適用され、2021年にEURO5へと完全移行するカタチとなる。 EURO4からの具体的な変更点は以下の通り
- 現在の排ガス検査サイクルであるWMTCをrevised WMTCへと改定
- 耐久距離の見直し
- より高度な車載式故障診断装置の導入
- 燃料蒸発ガスの規制値強化
ただし、これらの概要はあくまでも予定であって、詳細な目標値などはEURO4施行後の環境効果調査を踏まえて決定される予定だという。ちなみに、四輪車ではすでに2015年1月よりEURO6が施行されているので、二輪車の排ガス規制もEURO5が施行されるころにはEUOR6やEURO7が話題にのぼることだろう。
EURO4施行に伴い、生産終了モデルが出てくる?
まあ小難しい話はこれくらいにして、ユーザーにとって一番大事なのはこの問題なのではないだろうか?
“EURO4に通らず、カタログ落ちしちゃうモデルはあるのか?”
今回のPCXのように設計の新しいモデルは小変更でEURO4に適合させることができるけれども、設計の古いモデルは何かしらの変更や改良を加える必要が出てくるだろう。ただし、EURO4はあくまでも欧州での排ガス規制の話。国内で販売するモデルには国内で定められた排ガス規制が適用される。そして、実は国内でもすでに“平成28年規制”という二輪車排ガス規制の施行が決定している。 この平成28年規制は、基本的にはEURO4に準拠した内容となっているけれども、最高速度と排気量によってクラスが3つにわかれていて排ガスの規制値が異なるなど、若干の違いがある。また、燃料蒸発ガスの制限や車載式故障診断装置の義務化も盛り込まれているが、これらの内容はEURO4とほぼ同様だ。 この平成28年規制が施行されるのは、新型車は2016年10月1日から、継続生産車&輸入車では2017年9月1日からとなっている。
これらのことを踏まえると、国内市場においても生産終了もしくは、いったんカタログ落ちするモデルが2016年からの数年で少なからず出てくることは間違いない。 事実、2016年6月2日時点でもカワサキからはファイナルエディションとしてKLX250とDトラッカーXの国内生産の中止がアナウンス済み。ホンダのサイトを覗いてみると、フォルツァやフェイズ、エイプ100、ディオ、トゥデイなどの生産終了が明記されている。 また、国内の排ガス規制の変更に伴い、モデルの入れ替わりが起こるこのタイミングで本来は規制とは無関係で海外向けには生産を続けるが、国内での販売は終了するというモデルも出てくることだろう。たとえば、CB400Fとインテグラは国内のサイトでは生産終了とうたわれてはいるが、すでに海外ではEURO4に対応した新型が発売されている。
では、このまま多くのモデルが姿を消してしまうのかといえばそうではないハズ。2008年の二輪車排ガス規制&騒音規制の際にも多くのモデルが生産を終了した。しかし、FI化により見事に復活をはたしたSR400を思い出してほしい。いったんカタログ落ち、のちに復活、もしくは生産終了後にニューモデルへバトンタッチというパターンも必ずあるので、今後の動向を楽しみに待ちたい。
ABS装着の義務化も始まる!
ちなみに、規制関連の話題としてABS装着の義務化も注目したいポイント。欧州では2016年1月より、すでにABS装着の義務化が始まっており、125cc以上の新型車にはABSの装着が必須となっている(50ccクラスのモデルはABSもしくはコンバインド・ブレーキ・システムでも可)。 なお、国内でもABS装着の義務化が決定しており、新型車では2018年から、継続生産車では2021年から125cc以上の車両にはABSを装着する必要がある。また、原付二種(51cc~125cc)にはABSもしくはコンバインド・ブレーキ・システムの装着が義務付けられている。