高校生を対象としたバイク講習会が埼玉県で積極展開中!

危険は遠ざけるのではなく積極的に知ることで安全性を高める試み

もう昔話になるけれど、埼玉県といえばかつて『三ない運動』の最激戦区の一つとして全国に知られた場所だった。もう『三ない運動ってなんだ?』という人もいそうだから改めて説明すると、三ない運動とは1980年代あたりから全国に広がった高校生に対する“バイクの免許を取らせない” “バイクに乗せない” “バイクを買わせない”という、PTAなどが中心に推進した運動のこと。校則で免許取得が禁止されたり、それでも免許を取得すると卒業まで免許証を没収されたり、最悪時には退学処分を下されることもあったのだ。

 

昔から批判は多かったが、『危ないモノには触れないようにして安全を確保する』という発想から『危ないモノの危なさを正しく知り、それを回避する知識を身に付けることで安全を確保する』という方向に転換したことで、今では全国的に交通安全指導が積極的に行なわれるようになっている。埼玉県でも、昨年の2019年から高校生のバイク免許取得とバイク通学が解禁となり、それに合わせて昨年から安全指導のための講習会を行なっているという。

 

その埼玉県を例にすると、バイクの免許を取得すると学校に申請し、学校はそれを受けて講習会参加を条件に認可するという流れになる。この講習会を通じて高校生たちを事故から守ることを目的に、教育委員会が主催となり、県警、二輪車普及安全協会などが連携して座学や実技の講習を行なっているのだ。そして今回取材したのが、その講習会『令和2年度 高校生の自動二輪車等の交通安全講習』というわけ。

 

ちなみに埼玉県は県内を6グループに分け、全6回の講習会を行なっている。取材した8月24日(月)は3回目で、今年は残り3回を別の場所で実施するとのこと。

 

また参加台数は取材日だと39名(原付含むバイク所持者34名、未所持者5名)だったが、地域などによっても参加者はまちまちで、過去に秩父地域で開催した回には96人が集まったそうだ。

 

今回も同一の学校から1学年だけではなくさまざまな学校の各学年の生徒たちが集まっていた。参加したバイクも本当にさまざまで、原付スクーターから原付ミッション車、250㏄スクーター、250㏄フルカウルスポーツ、400㏄ネイキッドなどが今回は臨んだ。

 

こちらが今回の講習会の舞台となった東武かすみ自動車教習所。教習所の休みを利用しており、ほかの利用者もなく安全な場所で、基礎をもう一度思い出してもらうのだ

最初に関係者からの挨拶があり、続いて乗車姿勢の確認などを行なう。正しい乗車姿勢とはイザというときに体を動かしやすい待機姿勢でもあり、参加者たちも教習時代を思い出しながら(?)確認しているようだった
またバイクの乗車前点検についても触れていた。これは義務なんだけどアバウトに見てない人も多いのでは? ちなみにこの写真はタイヤを回して異物が刺さってないか確認するためには、お尻でバイクのフロントを上げると楽だよという説明

日常とは勝手が異なる講習内容を経て安全について学ぶ

講習会の流れはというと、午前9時から開講式を行ない、休憩を適時挟みつつ実技を1時間30分、事故違反状況や事故時の対応要領などの座学45分、救急救命法についての座学45分をそれぞれ行なって、13時には閉講となっている。

 

まず埼玉県警白バイ隊によるスラロームや1本橋、坂道でのUターン、制動、速度超過時のコーナリングといった講習内容の実演を経て、1時間ほどコースを周回する形で参加者たちは実走。もともと上記は免許取得時の技能の過程でしっかり行なう内容だし、簡単にこなしちゃうかな?と思っていたが、普段の交通で講習内容に近いシチュエーションに遭遇する機会が少ないのか、なかなか悪戦苦闘する姿が見られた。

こちらは白バイ隊による模範実技。一本橋は教習所でも学ぶことだが、坂道でのUターンはなかったはず。でも公道で出くわす可能性がある以上、知っておきたいノウハウだ。ちなみにこのとき、とくに「こうしましょう」といったコツやアドバイスはなかった。課題は課題だが、それをクリアすることだけが目的ではなく、課題を通じて安全運転を考えてもらうことが重要と考えているようだった

苦戦していると、ところどころで講習員が身振り・手振りを交えてアドバイス。ただ、単に課題をクリアするためのコツを伝授するというよりも、より安全で確実な動作をするうえでのポイントを指摘するといった具合だ。ヒザが開ければニーグリップできないので安定感がなくなるよ、といった感じ。

ところどころで講習員たちがアドバイスを送る。基本的にはほんのひと言、ふた言くらいだが、参加者から質問されればしっかりとそれに応えていた
実技の後半になるとソコソコ慣れてきたのか各セクションをスムーズにこなす人が目立つようになった。ちなみに一本橋はタイム計測もしていて、優秀者たちには記念Tシャツが最後に配られた

実走を通じて交通でのいろんな課題点を知りると、今度は交通安全やAEDについての座学。こちらもそれぞれ45分の講習となったが、いずれも自分や相手の命を左右するかもしれないテーマだけに、真剣な面持ちで指導員の話を聞く姿が見られた。

いずれにおいても重視されたのは、どうすれば安全でいられるのかという点。参加者からすると『暑い中で強制で講習を受けさせられてメンドクサイなぁ』と思うことはあっただろうが、事故は起こすまでは誰もが他人事。でもその経験や知識を知ることはできるし、知ることで予防することもできるようになる。ぜひ今回の講習から自分を守るためのヒントを見出してもらえばと思う。

参加者の声

泉谷優太さん(18歳)・哲也さん(49歳)/KAWASAKI GPZ400R

この日はお父さんの哲也さん(写真右)が付き添いで会場に来ていたという泉谷優太さん。愛車GPZ400Rは放置されていた不動車を7万円で購入してきて、半年かけて親子でレストア作業して復活させた。なのでこの日は乗り始めてまだ1~2ヶ月目。「実技も楽しかったですし、講習もためになりました。バイク友達が同じ学校にいないので、同年代の人と一緒の場所でバイクに乗れるだけでも楽しいと思いました」

岡田さん、駒田さん、並木さんの3人組

3人とも家族がバイクに乗っていたり、過去に乗っていたことで、バイクに興味を持ち、これから趣味としてバイクを楽しみたいということだった

令和2年度 高校生の自動二輪車等の交通安全講習 概要
日時
2020年8月24日(月)
場所
埼玉県・東武かすみ自動車教習所
主催
埼玉県教育委員会
協力
埼玉県警察本部、埼玉県自動車教習所連合会、埼玉県安全協会、二輪車推進委員会、埼玉県二普協(日本二輪車普及安全協会)、ホンダモーターサイクルジャパン

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