【連載】BMWの誇るアドベンチャーモデル“GSシリーズ”をもっと知ろう!PART.1 後編

文:松井 勉

前回のあらすじ

この記事はBMWのGSシリーズを深く知ってもらうための連載 PART.1の後編です。前編をまだお読みでない方は併せてどうぞ。

【連載】BMWの誇るアドベンチャーモデル“GSシリーズ”をもっと知ろう!PART.1 前編

初代GSである“R80G/S”の誕生と挑戦

BMW R80G/S 広告

 

BMWのアドベンチャーモデル、GSが誕生した1980年。初代GSであるR80G/Sはこんなスペックのバイクでした。エンジンは空冷OHV2バルブ、798cc水平対向2気筒。そのボア×ストロークは、84,8mm×70.6mm。最高出力は50hp/6500rpm、最大トルクは56.7N・m/5000rpm。現代の指標から見ればアンダーパワーに思うかも知れませんが、19.5リッター入りの燃料タンクを満タンにした状態で車重が186㎏と軽量だったこと、水平対向エンジンがもたらす低重心効果もあり、車重の数値からは想像できない取り回しの軽さがありました。この車体レイアウトも、GS人気が今日まで続く一つのファクターでもあったのです。

 

BMW R80G/S エンジン

何より当時のBMWが組み合わせていたビング製の負圧式キャブレターが生み出す扱いやすい出力特性は、走る場面を問わず800㏄エンジンを友人のように扱うことができました。峠道では力強く、高速道路では快適なクルージング。そしてオフロードではダイナミックにもソロリ、ソロリとゆっくり走ることも得意なエンジンでした。

 

また、当時のオフロードモデルといえばフロントブレーキはドラム式、ヘッドライトは暗く、夜間走行に長けているとは言えませんでっした。何より軽さ命だったのです。G/Sはフロントにディスクブレーキを採用し、ヘッドライトは当時最も明るいH4のハロゲンバルブを採用することで上級ロードモデル同等の装備をもっています。

 

また、ドライブシャフトを持つリアスイングアームに片持ち式を採用したこと。サスペンションも片側に勿論1本のみ。そして、片持ちのメリットとして、スタッドボルト3本で取り外しが可能なリアホイールとして、旅先で万一パンクをしても手早く車体から取り外し、修理に取りかかれるのもメリットでした。

 

また、当時のBMWは、バランス式センタースタンドを採用していて、センタースタンドを掛けた状態でリアホイールを取り外せば前に、フロントホイールを取り外せばリアに傾き、そうした作業を安定してできる設計になっていました。これも旅先でのトラブルに備えるのはもちろん、長い歴史のなかで大切にされた伝統だったのかもしれません。

 

さて、R80G/Sが登場した頃、ヨーロッパでは二輪、四輪、トラックなど、およそ陸上を走る車両であればエントリーが出来た冒険ラリーの人気が高まりつつありました。パリ〜ダカールラリーです。スタートは1月1日。新年を迎えるムードと、サッカーなどのメジャースポーツ、モータースポーツも1月下旬のモンテカルロラリーまで話題が止まる時期に目を付けた主催者が壮大な冒険ラリーを仕掛けます。

 

フランスのパリの中心地をスタートし、地中海側の町まで移動。そこでフェリーで対岸のアフリカ大陸へ。当時、アルジェリアのアルジェへと渡ったラリー一行は、さらに南下し、ニジェール、マリ、モーリタニアなどの国々をサハラ砂漠を西進。大西洋岸にあるセネガルの首都ダカールへ。日数3週間、距離にして1万キロを超す日程で行われたそのラリーは、国境、文化、大陸、そして季節感まで越えるものでした。

 

主催者が用意したロードブックを頼りに参加者は決められた道を走ります。時に広大な砂漠の中では、まるで海を渡るように指示された方位だけが頼りに走ることもあり、そこには砂の海だけがあり、道がない!

 

BMW R80G/Sでラリー

 

BMW R80G/S 広告

BMWはG/Sのプロモーショとしてこのラリーに参加します。ガソリンの補給が出来ない砂漠。バイクの参加者は、40リッターは軽く飲み込むような燃料タンクを取り付け、夜間痩躯に備え明るいヘッドライトを装備します。BMWのG/Sはすでにそうした部分でラリーに向けた改造がしやすいバイクでした。ボクサーツインは冷却性に優れ、低重心のエンジン搭載位置の恩恵で、巨大タンクを装着しても操縦性への悪影響をさえることもできました。持ち前のパワーが長い砂のステージで有利に働きました。

 

なにより、パート1、前編でお伝えしたように、これもいわば長距離都市間レース(ラリーですが)。長い距離になればBMW有利です。

 

ライバルは500㏄クラスの単気筒モデルがほとんど。ラリー用に補強をすれば重量が増し、軽量のメリットも生かせません。毎日400㎞から700㎞と走るラリーでは、単気筒エンジンの振動がライダーを疲れさせ、路面の衝撃を受けて各部にトラブルが続発します。

 

 

そんな中、振動が少なく、フレームの強度にすぐれたG/Sをベースにしたワークスマシンは、見事このパリ〜ダカールラリーを1981年、1983年にフランス人ライダー、ユベール・オリオールが。1984年、1985年にはベルギー人ライダー、ガストン・ライエがこのラリーで勝利を納めます。この冒険ラリーでの成功や、その勝利をイメージさせるR80G/S Paris-Dakarモデルの追加、その後もR100GS PARIS-DAKARモデルなど、ラリーをイメージしたビッグタンクモデルが投入され、現在のADVENTUREシリーズにつながる礎を築くのです。その後、BMWは14年ぶりをにファクトリーチームを送り込んだ1999年、2000年にもこのラリーに勝利をします。

 

このラリーが持つ冒険的なイメージや、モータースポーツながら有名な俳優、スポーツ選手がこの時期を使って参加するなど話題性も高く、フランス映画「男と女」の続編ではこのラリーがその舞台に選ばれたほど。そんな文化的な刺激をするほどこのラリーは人気だったのです。

 

ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキなど日本のメーカーはもちろん、カジバ、ジレラ、アプリリアなどイタリアのメーカーも参加。もちろん、KTMもその中に名を連ねています。

 

80年台半ばになると、市場にはパリ〜ダカールラリー風バイクが多く市販されました。アフリカツイン、テネレ、DR-BIG、天涯と言った名前はお馴染みで、当時ドゥカティを傘下に納めていたカジバからはドゥカティのエンジンを搭載したモデルがエントリー。その時代をオマージュしたモデルが昨年、スクランブラーベースで発表されています。まさにこのラリーは現在のアドベンチャーバイクへと続く源流ともなっています。

 

そんな時代から進化を続けるBMWのGS。次回は現行モデルについて紹介しましょう。

BMW Motorrad/GS HUB

PART.2 前編はこちら

【連載】BMWの誇るアドベンチャーモデル“GSシリーズ”をもっと知ろう!PART.2 前編

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