文:松井 勉
前回のあらすじ
この記事はBMWのGSシリーズを深く知ってもらうための連載 PART.3の前編です。PART.2をまだお読みでない方は併せてどうぞ。
GS TROPHYとは。
ルーツは、国境を越える旅?
それだけに長距離ツーリングに適したオンロード、オフロード性能が非常に高いのが特徴です。バイクに乗るのが楽しい。そう思うライダーが長いツーリングに出たとき、舗装路では快適な移動とワインディングを楽しめる性能、疲れない快適性は必須。退屈したら疲れます。走りたい思いにバイクが応えてくれない、これはストレスでしかありません。
それに未舗装路になっても、安定感、走破性、そして楽しめる性能をもっていないとイケマセン。GSはそれらのどこをも切り捨てず併せ持つのが最大の特徴。まさに世界でもっともすぐれたサバイバルツアラーだ、と言えるのです。
そんなGS乗りたちを世界から集め、2年に一度開催されるイベントがあります。それがインターナショナルGSトロフィーです。直近、2020年2月にニュージーランドで開催されたイベントには、23チーム、40の国と地域から参加者が集まりました。
GSを通じて、国、文化、性別などの垣根を取り払い、8日間のキャンプ生活で寝食をともにしながら同じ目的地へ向かい、同じ道を移動する。そして、その中で数々のタスクをこなし、ネイション、チームごとにポイントを稼ぎ、ランキングしようという、アドベンチャーツーリングとゲームを合わせたもの。それがGSトロフィーです。
過去7度行なわれたGSトロフィーは、どれも選りすぐりのGSフィールドが舞台
最初にインターナショナルGSトロフィーが開催されたのは2008年、秋。今から12年前のことです。その舞台はアフリカ大陸北部にあるチュニジアでした。日本を含む、ドイツ、イタリア、スペイン、アメリカの5ヶ国から代表選手3名+プレス3名という1カ国6名編成でスタートを切ります。このとき、プレスの一人として参加した私も、成田空港を出発する段階になっても、どんなことをしてどこへ行くのか。まったくわからない状態でした。選手たちの集合場所になったイタリア、ミラノ郊外のホテルでも、各国のプレスと「どこ行くか聞いている?」という会話が挨拶がわりでした。
そのホテルの中庭に置かれたのは、その年にデビューしたF800GSをトロフィー仕様に仕立てたマシンでした。ガード類の追加やオフロード用タイヤの装着などGSをオフロードで遊び倒すんだ、ということが一目でわかりました。
出発の朝、30台のGSは先導車に率いられ、港町、ジェノバへ。目の前の港には地中海を渡る大型フェリーが何隻も停泊しています。ランチの時にそこから我々はフェリーに乗ることを聞かせされます。その船上であらためて行き先について発表される、というまさにミステリーツアーだったのです。
その後、第2回は2010年に南アフリカ、スワジランドを舞台に開催されます。野生動物が暮らすナショナルパークなどもあるエリアを舞台にしたサファリ編ともいうべきGSトロフィーでした。
続く2012年。3回目を迎えたGSトロフィーは、開催地をアフリカ大陸から南米大陸へ。当時、ダカールラリーが行なわれている場所と同じく、アルゼンチン、チリを舞台にパタゴニア編として行なわれました。アンデス山脈や、南米の乾いた砂漠地帯。さらに標高の高い峠など、この回もGSアドベンチャーを体現する内容となったのです。この回までトロフィーバイクとしてF800GSが活躍しました。
第5回、2016年に、GSトロフィーはついにアジアへと進出します。タイのレインフォレストを舞台にしたこの回は、乾期だったとはいえ、天候がくずれると森の中に続く土の道はライダーたち苦しめます。移動距離は長くないものの、R1200GSで挑むオフロードルートは、歴代GSトロフィーのなかでもきびしい大会になったようです。
続く第6回は2018年に開催されました。草原の国、モンゴルがその舞台に。国土の平均標高が高く、年間の平均気温が長い冬の影響で低いモンゴル。しかし夏の気温、太陽の強さは強烈。年間気温さが60度以上に及ぶ場所です。
冬期、草原地帯では地面や湖、川が凍り、まるで海を越えるように目的地に直線で移動するモンゴルの人々。その氷結がとけると夏のはじめには地面がぬかるみ、それを避けながらモンゴルの人はクルマを走らせます。それゆえ、直線的な道ではなく、幾重にも重なった轍が地平線へと消える場所も珍しくありません。
いわば、日本の概念では計れない道なのです。いくつもの渡河セクションを超え、自然のワナに転倒し、リタイアを喫した選手も少なくなかったこの年、GSのアドベンチャーフィールドは参加者にきびしい一面を見せたのかもしれません。この年もR1200GSがトロフィーバイクとして活躍をしています。
次第に参加国を増やしGSのイベントと言うよりアドベンチャーバイクのカルチャーにも影響を与えるGSトロフィー。2年に一度開催されるのが定番になったイベントは、そのルーティンを守り、2020年、7回目の大会をニュージーランドで行なっています。
ちょうど世界が新型コロナウイルス感染症拡大によりイエローシグナルがともったころ、2月の上旬にGSトロフィーニュージーランドラウンドはスタート。北島から南島へと渡り、8日間、2,600㎞を走破するものとなりました。全行程のなかで舗装路と未舗装路の割合がほぼ半々。このときからトロフィーマシンに選ばれたF850GSは、そのきびしくも美しいニュージーランドの中をたくましく走ってくれました。
日々行なわれる伝統のゲームも、河原に設けた渡河セクションありのコース、パイロンを並べてジムカーナのようなルートを作り(オフロードの地形を利用して)、そこでのチーム全体のタイム合計で順位を決めるゲーム、リヤタイヤの着脱でメカニカルスキルを問うタイムトライアル、テントとシュラフを使って、テントの中に駆け込み、シュラフを出し、寝る体制をつくり、またシュラフから抜けだし、それを片付け、テントから抜け出し、次のライダーが待つ場所まで走る、というアウトドアリレーゲーム、純正オプションのナビゲーションを使った宝探しと地点登録ゲーム、2020年で発売40周年を迎えたGSにまつわる歴史クイズ、チームの代表が1名だけ走るタイムトライアル、海辺でGSをチーム3名だけでスタートからゴールへと押して運ぶ体力ゲーム、トライアルのコースの途中で示された航空券の拡大コピーを読み取り、便名、シート位置、乗機時間などをゴールで申告するオフロードを走りながらの記憶ゲーム…。
オフロードランをするゲームでは特性に合わせて足つき、パイロンタッチなどのタイム加算があり、攻めすぎてもタイムを落とすことに。こうした絶妙なさじ加減で構成されたゲームと、最短でも80㎞、日々300㎞から400㎞以上を走り、連日、キャンプをし、夜も空けぬ時間から出発準備をする。これがトロフィーの日々でした。順位が決まるのでゲームに目が行きがちですが、それは旅の語り草程度かもしれず、GSで未知の土地を走ること、つまりガチの冒険ツーリングが本筋です。そこをしっかりとこなせる強さがあってゲームで取りこぼさない冷静さがあるライダー。これこそ、その国のGSアンバサダーともいえるトロフィーライダーなのではないでしょうか。
インターナショナルGSトロフィーに出たい!最高の思い出は毎回3名から発信される
さて、そんな冒険旅行を世界中のGSライダーと共有し、それを発信するのが目的でもあるインターナショナルGSトロフィー。このイベントは応募抽選型の懸賞ではありません。あくまでも参加したいと希望したライダーが主体的に目的に近づくコトが必要になります。しかし、2年に一度、3名までという狭き門。
その条件、国内選考会へのエントリー資格として…。
- 自身がGSオーナーであること。選考会には自車で参加できること。
- GSトロフィーの日々を完遂できるライディングテクニックを持っていること。
- 開催期間中を乗り切るフィジカルを持っていること。
- 英語によるコミュニケーション力をもっていること。
- そして会期に合わせて予定(休暇など)が取れること。
これを基礎条件として、各国で行なわれるクオリファイラウンドへ参加し、ファイナルラウンドで代表選手3名が確定します。
2022年のGSトロフィーに向け、BMWモトラッドの専従チームはすでに動いているのは間違いありません。いったい、8回目となるイベントは、どこで、何時? これまでの流れだと、開催前年に開催地やクオリファイイベントがあるので、興味のある人は、最初のチケット、GSオーナーへのコマを進めてください。